財産債務調書制度は、富裕層の資産状況を正確に把握し、適正な課税を確保するために平成27年度税制改正で創設された制度です。令和4年度税制改正では対象者が拡大され、監視の網がさらに広がりました。
◆提出対象者
財産債務調書の提出が必要となる方は、次の1又は2に該当する方です。
1、その年分の退職所得を除く各種所得金額の合計額が2,000万円を超え、かつ、その年の12月31日時点で価額の合計額が3億円以上の財産又は1億円以上の有価証券などの財産を有する方
2、その年の12月31日時点で価額の合計額が10億円以上の財産を有する居住者(所得要件なし)
◆提出書類と期限
財産債務調書には、財産の種類、数量、価額、所在地及び債務の金額等を「種類別」「用途別」「所在別」に記載します。また、別途「財産債務調書合計表」の添付が必要となります。提出期限はその年の翌年6月30日までで、提出先は所得税の納税地(所得税の納税義務がない場合は住所地)を所轄する税務署となります。
◆記載事項の簡略化
令和4年度税制改正では、記載事項の簡略化の拡充が図られました。
1、事業用の未収入金・未払金・その他の債務、家庭用動産について、記載を簡略できる範囲が、取得価額100万円未満から300万円未満に引き上げられました。
2、預入高50万円未満の預貯金については、預入高の記載を省略することができます(「所在」「備考」欄に口座番号を記載)。
3、青色申告決算書又は収支内訳書に記載された減価償却資産については、資産ごとに区分して記載することを省略できます(財産債務調書に総額で記載)。
◆インセンティブとペナルティ
この制度には申告の正確性を担保するための措置が設けられています。
1、財産債務調書を提出した場合には、記載した財産・債務について申告漏れが発見されても、過少申告加算税等が5%軽減されます。
2、財産債務調書の提出がない場合又は提出された財産債務調書に記載すべき財産・債務がない場合(重要なものの記載が不十分と認められる場合を含む)には、申告漏れが発見されると過少申告加算税等が5%加重されます。
ここで重要なのは、「重要なものの記載が不十分」と認められる場合も加重措置の対象となる点です。裁決例でも、記載内容の不備によって財産の特定が困難な場合は加重措置が適用されることが示されています。
令和4年度税制改正では、提出期限が従来の翌年3月15日から6月30日に変更され、記載を簡略化できる範囲も拡充されました。しかし、納税者にとっては調書作成のための資産価格の調査など手間やコストがかかることには変わりありません。提出漏れや記載漏れがないように細心の注意を払う必要があります。
国税庁:「財産債務調書制度」のあらまし
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/zaisan_saimu/pdf/zaisan_chirashi.pdf
国税庁:財産債務調書制度(FAQ)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/zaisan_saimu/pdf/zaisan_faq_r5.pdf
国税庁は令和6年10月23日に「おむつに係る費用の医療費控除の取扱いについて(情報)」を公表しました。介護保険法施行規則の一部改正に伴い、厚生労働省「おむつに係る費用の医療費控除の取扱いについて」が令和6年10月10日付で改正されていることが紹介されています。
おむつ代については、原則として「おむつ使用証明書」で医師による治療を受けるため直接必要な費用であることが明らかにされたものが、医療費控除の対象とされます。ただし、例外的に「おむつ使用証明書」に代えて「主治医意見書の内容を確認した書類等」の添付等でもよいとされています。
改正前は、医療費控除適用1年目においては「おむつ使用証明書」の添付等が必須とされていました。改正後は、要介護状態の長期間継続が見込まれる場合は最長48か月間の要介護認定が可能とされたこと等を踏まえて、適用1年目においても、「主治医意見書の内容を確認した書類等」を添付等する例外的な対応が可能となります。
参考
・国税庁 おむつに係る費用の医療費控除の取扱について(情報)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/241009/index.htm
・厚生労働省 おむつに係る費用の医療費控除の取扱いについて
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/241009/pdf/omutuBetten.pdf
2025年度(令和7年度)の税制改正大綱では、物価上昇に対応するため、所得税の基礎控除や給与所得控除などが見直される予定ですが、国民民主党との合意形成までは至っていません。「103万円の壁」について国民民主党が主張する178万円を目指し、引続き協議を重ねるとしています。
現時点での変更予定は以下の通りです。
基礎控除の引き上げ
・合計所得金額が2,350万円以下の個人の基礎控除額を、48万円から58万円に引き上げるとしています。
・合計所得金額に応じて控除額が段階的に減少し、2,500万円を超える場合は適用されませ
ん。
給与所得控除の見直し
・給与所得控除の最低保障額を55万円から65万円に引き上げるとしています。基礎控除額と併せて、給与所得者に対して所得税が課税されない給与収入額が、103万円から123万円へ拡大される予定です(103万円の壁)。
・これに伴い、源泉徴収税額表や年末調整のための給与所得控除後の給与等の金額の表等が改訂される予定です。
特定親族特別控除(仮称)の導入
・居住者が生計を一にする19歳以上23歳未満の親族等(その居住者の配偶者及び青色事業専従者等を除くものとし、合計所得金額が123万円以下であるものに限る。)で、控除対象扶養親族に該当しないものを有する場合に該当します。
・親族等の合計所得金額に応じて、最大63万円から最小3万円の控除が適用される予定です。
これらの改正は、国会で成立後、原則として2025年分(令和7年分)以後の所得税から適用される予定です。
詳しくは、自民党ホームページよりご確認ください。
参考:自民党 令和7年度税制改正大綱