年収103万円以下のサラリーマン(給与所得者)は、その所得に課税されません。課税対象となる所得から、基礎控除48万円と給与所得控除(サラリーマンの必要経費の最低保障額)55万円の合計である103万円を引くと、ゼロあるいはマイナスとなるためです。このうち、基礎控除等を引き上げ、所得税の課税基準を103万円から178万円に引き上げる方向で税制改正が行われるかもしれません。
基礎控除は、所得2,500万円以下(給与収入2,695万円以下)の人であれば、誰でも利用できます。所得2,400万円以下であれば、全員一律で、所得税は48万円、住民税は43万円です。この金額を超える人の割合は、わずか0.5%程度ですので、日本で収入のある人のほぼ全員が、基礎控除を受けていると考えて良いでしょう。
ところで、178万円の内訳が決まっているわけではなく、差額の75万円について、「基礎控除額を75万円引き上げます」とは決まっていませんので、もしかすると、給与所得控除の金額も変更するのかもしれません。
もう一つ、影響が大きそうなのが、「特定扶養控除」です。これは、扶養される親族が19歳~22歳(大学生相当)の場合、扶養される親族本人の年収が103万円(所得金額で48万円)以下であれば、扶養する側(世帯主)の所得から63万円控除するというものです。扶養される側の給与収入が103万円を超えた場合、63万円に税率を乗じた額が一気に増加し、世帯の手取りが逆転するので、家庭内トラブルも起きやすい税金の罠となっています。この見直しは期待したいと思います。
国の予算の使われ方を調べる会計検査院が先月(11月)、昨年度の決算検査報告書をまとめ、新型コロナウイルス対策に関わる事業で大規模な不適切受給が見つかるなど、合わせて648億円余りが不適切(税金の無駄遣い)に取り扱われていたと指摘しました。
会計検査院は、この報告書の中で、「自社株評価」について重要な指摘を行いました。
相続税及び贈与税の課税対象となる財産のうち、取引相場のない株式は、財産評価基本通達によれば、株式の発行会社の規模及び株主の区分に応じて異なる評価方法により評価するのですが、原則的評価方式として次の3つの評価方式があり、評価会社の規模区分別に選択可能な評価方式が定められています。
1.類似業種比準方式は1株当たりの類似業種比準価額により評価します。会社の業績等を表す3要素について類似業種と評価会社とを比べて、相対的に株式を評価する方式です。
2.純資産価額方式は1株当たりの純資産価額により評価する方式です。
3.併用方式は類似業種比準価額と純資産価額を併用することにより評価する方式です。
会計検査院が、令和2、3年分の相続税及び贈与税の申告のうち、取得した財産に取引相場のない株式がある申告の中から、無作為抽出した申告を対象として検査したところ、原則的評価方式による評価の状況では、類似業種比準価額の中央値は純資産価額の中央値の27.2%となっており、類似業種比準価額は、純資産価額に比べて相当程度低い水準になっていることが判明しました。純資産価額に対する申告評価額の割合の分布状況をみると、その中央値は、大会社0.32倍、中会社0.50倍、小会社0.61倍で、評価会社の規模が大きい区分ほど株式の評価額が相対的に低く算定される傾向で、これは、類似業種比準価額が下がる方向で評価通達が改正されてきたことや評価通達の計算式が評価会社の業績等の実態を踏まえて株式を評価する方法として適切に機能していないと指摘しています。
その上で、「国税庁において、相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価について、異なる規模区分の評価会社が発行した取引相場のない株式を取得した者間での株式の評価の公平性や社会経済の変化を考慮するなどして、評価制度の在り方について様々な視点からより適切なものとなるよう検討を行っていくことが肝要」と所見を述べました。
簡単に言えば、現状の自社株評価は安すぎる傾向にあるので、見直しをすべき、ということです。これまでも会計検査院の指摘に従った制度改正が行われてきた経緯からすれば、早めの対策(早めの自社株移動)を検討すべきです。
10月の衆議院選挙以後、「年収103万円の壁」を引き上げて、「手取りを増やす」という政策が実行されようとしています。
そもそも「扶養」は大きくわけて税金に関すること、社会保険に関することの2通りの考え方があり、さらに扶養される人の年収額によって適用となるしくみが異なります。扶養される人の年収が、どの基準に該当するかで異なるため、複雑です。税金も社会保険も扶養を適用するには、年収を103万円以下に抑えなくてはなりませんし、年収130万円を超えてしまうと、社会保険の扶養からも外れなくてはならないケースもあります。年収が基準オーバーしないよう仕事を調整するか、あえて扶養に該当しなくてもたくさん仕事をして稼ぐかの2択しかない、というわけです。
社会保険の「年収の壁」は、年収106万円と年収130万円の2つあり、報道を視聴する場合に注意が必要です。この違いは、勤務する会社の規模によって異なります。従業員が51人以上の会社に勤めている場合には年収106万円、それ以外であれば年収130万円とされています。この年収基準、以下の加入要件を満たすと社会保険に加入しなくてはなりません。ただ、手取りだけで考えればデメリットではありますが、将来の年金が増える可能性があることにもつながりますので、デメリットとも言い切れません。
130万円の壁の影響で、繁忙期で経営者としてはもっと働いてほしいのに、パート・アルバイトで働く人は労働時間を制限しています。その結果、経営者としては、新たな人材を確保する必要があるなど、追加の負担がかかっています。なお、130万円の壁に交通費が含まれます。
すでに、厚労省は2023年10月から「事業主の証明による被扶養者認定の円滑化」という暫定的な取り組みを始めました。パート・アルバイトで働く人が、繁忙期に労働時間を延ばすなどして一時的に130万円以上となっても事業主がその旨を証明することで、引き続き扶養に入り続けられるようにします。これにより、パート・アルバイトで働く人は国民年金・国民健康保険の保険料支払いの負担を回避できます。
「年収の壁・支援強化パッケージ|厚生労働省下記参照
https://www.mhlw.go.jp/stf/taiou_001_00002.html
まさにこれからの季節、既存のこの制度の活用も射程に入れ、国の政策の行方に注目しましょう。
なお、政策実行には「財源」が必要になるのですが、この議論が進んでいません。減税すれば経済が成長するというマジックは見たことがありません。
今年も年末調整の季節です。2024年は一度限り(?)の定額減税を加えた年末調整なのですが、実に経理事務が煩雑となります。
定額減税の対象となる同一生計配偶者と扶養親族を把握することがなによりも重要な作業となります。定額減税は、給与所得者本人以外に、同一生計配偶者と扶養親族が控除の対象となります。年末調整の際には、「扶養控除等申告書」や「配偶者控除等申告書」で定額減税の対象となる同一生計配偶者や扶養親族を把握します。ここで重要なのが、例年であれば扶養控除等申告書、配偶者控除等申告書に記載されない同一生計配偶者や扶養親族を把握する必要があるということです。
扶養控除等申告書、配偶者控除等申告書に記載する必要のない同一生計配偶者(令和6年中の所得が1,000万円超の給与所得者の同一生計配偶者)や16歳未満の扶養親族も定額減税の対象となります。ただし、非居住者を除きます。配偶者控除や扶養控除の適用要件よりも定額減税の対象となる配偶者・扶養親族の範囲が広いため、例年通りの記載だけでは定額減税を正確に行うための情報が不足してしまいます。そこで、扶養控除等申告書にも配偶者控除等申告書にも記載されない令和6年中の所得金額が1,000万円超の給与所得者の同一生計配偶者については「年末調整に係る申告書」を提出してもらいます。
すでに月次減税のために「令和6年分源泉徴収に係る定額減税のための申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書」を従業員から提出してもらっている事業者もいるかと思います。年末調整で提出してもらう場合、例年提出している申告書の様式が変更されて兼用様式となっています。その名も「令和6年分給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書」です。もはや何の申告書かわからないような長い名称となっています。
ここまで複雑になった年末調整業務を手計算するのはちょっと無理があります。もはや職人技です。私はシステムなしでは自信がありません。
国税庁が公表した相続税や贈与税の算定基準となる令和6年分の路線価では、全国の標準宅地は3年連続での上昇となりました。上昇率は2.3%となり2010年以降で最大です。
路線価が変動することで保有している不動産の相続税評価額も毎年変動しますが、都市部において大半の路線価は継続的に上昇しています。路線価が上昇すれば、資産価値が増える一方で、相続税の負担額も増える結果となります。そのため、過去に試算をしてご自身の相続税額等を把握している方も、毎年の路線価発表を契機にして財産評価をあらためて行い、ご自身の財産の状態を分析・把握することを推奨します。
また、相続税評価額の更新と合わせて、個人や法人の資金の流れを分析検証することも重要です。相続税のみならず、法人税や所得税を含めた財産全体を分析し、個人・法人のキャッシュフローを含めた財産全体、つまり、不動産・保険・金融資産・借入等、財産全体を見渡しながら、必要な対策を実行して頂ければと考えております。
最近は、「相続税の節税」や「円満な事業承継・財産承継」とは反対の、「財産の運用」や「納税資金確保や生命保険の見直し」という金融資産の増加策も同時に講じようとする傾向があります。まさしく、財産全体のポートフォリオの見直しが必要だと感じています。
当事務所では12月のシーズンセミナーで、愛知県を中心とした東海地域の地価・不動産状況や、改めて不動産を中心とした相続税対策についての最近の税制改正を踏まえながら、ご一緒に検討することにいたしますのでご参加ください。
国土交通省と中部3県(愛知、岐阜、三重)が9月17日に発表した2024年の地価調査(基準地価、7月1日時点)によると、3県とも商業地が前年から上昇しました。愛知県は4年連続プラスで、平均変動率は住宅地がプラス2.3%、商業地がプラス3.6%でした。全国的に見ても地価上昇率はバブル後最大(全用途でプラス1.4%)でした。
愛知県ではマンション開発に伴い、用地獲得競争が激化する名古屋市千種区の値上がりが目立ちます。住宅地の上昇率最高地点は本山駅付近で、16.9%上昇しました。千種区では、今池駅、池下駅直結のタワーマンション開発などが進み、千種区で良い土地を仕入れるのは困難になりつつあります。名古屋市以外では大府市、知立市の上昇が目立ちます。
愛知県の商業地でも最高上昇率は本山駅前で17.4%上がりました。リニア新幹線駅の予定地中村区では15%、神宮前駅周辺の再開発地熱田区でも10%上昇しています。
コロナ禍を経て住宅に対するニーズが変わり、また低金利が続いていることから住宅需要が活発になっていることが上昇の要因です。利上げが決まった中でも金利はなお低い水準にあり、海外投資家の需要が根強いためでもあります。
しかし足元では、金利の先高感、建築資材の高止まり、人手不足もあって、大手ゼネコンの受注スピードにブレーキがかかっていますし、オフィスビルなどの完成を遅らせて供給を絞るなど、変調に備える動きも出ています。
地価上昇の先行きに注視をする必要があります。
当事務所では12月のシーズンセミナーで、この、愛知県を中心とした東海地域の地価・不動産状況や、改めて不動産を中心とした相続税対策についての最近の税制改正を踏まえながら、ご一緒に検討することにいたしますのでご参加ください。
今月、手形や小切手について、三井住友銀行は既存の顧客向けの新たな発行を来年9月末で終了すると発表しました。発行済みのものについても再来年、2026年の9月末で決済手続きを終了します。また、みずほ銀行は新たな発行を2026年3月末で終了し、決済の手続きは2027年3月末までに終えるよう利用者に呼びかけるほか、三菱UFJ銀行も2026年3月までに新たな発行を終了する予定です。
このように、企業の間で使われている紙の約束手形や小切手の新たな発行を、大手銀行3行が来年度中に終了することになりました。各行はインターネットバンキングなどへの切り替えを働きかけていて、取り引き習慣の転換が進みそうです。
そもそも紙の手形や小切手は、企業間の取り引きで代金を支払う際に使われてきましたが、紙の手形や小切手は紛失のリスクがあるほか、現金の受け取りに時間がかかっていたため最近は利用が減り、決済の電子化が進む中で政府も業界に廃止を呼びかけていました。大手行が全面的な発行終了に動き出すことでほかの金融機関でも同様の対応が広がることが予想され、長く続いてきた取り引き習慣の転換が進みそうです。
約束手形であれば、現金決済よりもさらに遅い期日を指定でき、支払いまでの期間を延ばすことで発注側の資金繰りが楽になります。企業の信用度を基にしているため、当座預金口座の残高が支払金額より少なくても約束手形を振り出せ、高額取引も可能になります。こうしたメリットから、製造業・建設業など高額な仕入が発生する企業間取引において、約束手形が長く活用されてきました。しかし、その一方で、約束手形は受取人側の負担が大きくなることが問題視されてきました。
約束手形が廃止されれば、銀行取引における「不渡り」のペナルティがなくなるため、定められた支払日に入金しない企業が現れる可能性も懸念されています。こうした企業モラルが問われる状況は、業界にも大きな影を落としかねません。今後は、大企業間取引も含めサプライチェーン全体で取引方法を見直し、なるべく早く約束手形から代替案に切り替える必要があります。
その候補の筆頭が「でんさい」です。これは、事業者の資金調達の円滑化などを図るべく創設された「株式会社全銀電子債権ネットワーク」(通称:でんさいネット)が取り扱う電子記録債権です。2013年からすでにサービスが提供されており、紙の手形の問題点を克服した金銭債権として多くの企業が活用しています。
人事院は先月8月、国家公務員に支給する「扶養手当」のうち配偶者分を廃止する勧告を行いました。共働き世帯が増加している実態を踏まえたようですが、就業調整を招く、いわゆる「年収の壁」の一つが解消されることには賛成です。
少子高齢化による人手不足が深刻化する中、日本の安定的な成長には労働力を維持することが必要である一方、働く意思がありながら就業を調整せざるを得ない状況は、効率的な労働供給の妨げとなります。こうした背景から、年収の壁対策と併せて、配偶者手当の見直しが推進されたところです。周知の通り、政府は「年収の壁・支援強化パッケージ」をとりまとめ、支援を開始しています。年収の壁による就業調整は、主に手取り額の減少を避ける目的で行われます。特に、厚生年金・健康保険料の発生する106万円の壁や、国民年金・国民健康保険料の発生する130万円の壁では、社会保険料の負担が増え多くの場合で手取り額が減少するため、就業調整に繋がりやすいですが、配偶者手当による就業調整は、主に手当のカットを避ける目的で行われます。配偶者手当は、受給条件として配偶者の収入が103万円以下、または130万円以下とする場合が多く、実質的な年収の壁として就業調整を招いていました。例えば、夫の会社の配偶者手当をもらうため、他社で働いている妻が、手当受取りの収入基準を超えないように働き控えをする場合があり、このため、社会保障制度だけでなく、企業の配偶者手当が、いわゆる「年収の壁」として、就業調整の一因となっています。
「配偶者手当」が、冒頭の人事院勧告でみるように廃止になると、民間でも同様の動きが加速されることが予想され、従業員の就業調整に困っている企業にとっては朗報と言えます。まだ配偶者手当を支給している事業所は53%もあるようですが、この機会に検討をしてはいかがでしょうか。
なお、人事院勧告の目的には、配偶者手当の廃止によって生み出される財源を活用するなどして、子どもに対する扶養手当を増額させるようです。見直しが実現すれば、配偶者の労働参加をさらに後押しするとともに、子育て世帯への支援拡充につながりそうです。
岸田首相は8月14日、9月の自民党総裁選に出馬しないことを突然発表しました。
政治資金問題で生じた政治不信の責任を取ること、自分が身を引くことによって活発な総裁選となり、新たな自民党という形を作ってほしいと願うこと、などを理由に挙げています。内閣支持率が長く低迷を続ける中、総裁選に出馬しても自民党内の支持は得られない、との判断があった可能性もあるでしょう。
令和3年10月に発足した岸田政権は、経済政策面でアベノミクスへの評価を避ける一方、「新しい資本主義」を掲げ、「成長と分配の好循環」を強調し、その際に重視していたのは、賃上げを通じた所得再配分政策でした。賃上げ重視の姿勢は、賃上げ促進税制の拡充に現れています。
また、岸田政権は株式市場も取り込んだ成長戦略を進め、個人の資金を積極的に株式市場に呼び込み、企業の成長と個人の資産所得増加の好循環をはかる「資産所得倍増計画」を打ち出し、新NISA制度(少額投資非課税制度)の創設を行っています。制度の恒久化と非課税枠の拡大により、令和6年1~3月期のNISA経由の買い付け額は6兆円を超えたといわれています。
他方、岸田政権は、財政健全化には目立った成果を挙げていません。中でも、防衛費増額の財源確保(防衛増税)については依然決着していません。防衛増税のうち復興特別所得税については、家計をとりまく状況に配慮し、2.1%の税率を1.1%に引き下げ、その一方で、防衛費増額の財源を確保するため、当分の間、所得税の税額を一律で1%上乗せする新たな付加税を導入します。事実上、復興所得税の一部を転用する形で、すでに発行した国債の償還財源が減ることから、2037年までの25年間としていた復興特別所得税の課税期間を延長するとしています。このように所得税の増税を視野に入れながらも、支持率低迷の打開に向けて、所得税の定額減税を実施しました。これは目的や経済効果が不透明な、人気取りの政策と言えますが、国家的に余計な事務負担を発生させ、むしろ岸田政権の評価を下げてしまいました。
前回号では、川崎重工業による、海上自衛隊から請け負った潜水艦の修理や検査に絡み、取引先企業との間で架空の取り引きを行い、裏金を捻出していたことが、大阪国税局からの指摘で明らかになり、会社は、およそ6億円の法人税の修正申告を行うとした事件を取り上げました。
今回はその相手側の防衛省の問題です。
防衛省は、国の安全保障にかかわる「特定秘密」の情報や潜水手当の受給などをめぐり、違反や不正があったとして、218人を処分しました。防衛省によると、違反や不正が確認されたのは、国の安全保障にかかわる「特定秘密」の情報の取り扱いと、潜水手当の受給、部隊で無料で提供される食事の飲食、パワーハラスメントの4件です。
このうち、海上自衛隊では幹部を含む隊員22人が、基地の中に住む隊員だけに無料で提供される食事を資格がないのに食べ、不正飲食した食事代は、去年3月までの3年間で合わせておよそ160万円だということです。22人のうち幹部は5人で、防衛省は40代と50代の3等海佐を1階級の降格に、40代の1等海尉2人と3等海尉1人を、12か月から20日の停職としました。
役員や使用人に支給する食事提供については税務上、規定があります。給与として課税されないで済む食事は、①役員や使用人が食事の価額の半分以上を負担していること、②「食事の価額」から「役員や使用人が負担している金額」を差し引いた金額が1か月当たり3,500円以下であることーーーの2つの要件をいずれも満たすものでなければなりません。満たしていない場合には、食事の価額から役員や使用人が負担している金額を差し引いた金額が給与として課税されることになります。民間なら給与課税です。税務調査でも厳しく見られ、規定に従っていないと給与課税の修正申告となります。
政府は防衛力強化に係る財源確保のための税制措置(「防衛増税」。令和5年度税制改正大綱)として、令和9年度に向けて複数年かけて段階的に増税することとし、令和9年度において、1兆円強を確保する方針ですが、取引業者からの裏金疑惑、潜水手当の不正受給、無銭飲食が日常的に横行している状態では、この増税は受け入れがたいと言えるでしょう。
先日、川崎重工業が架空外注取引によって得た資金で、海上自衛隊員の接待をしていたことが新聞報道や同社のIRで知られることになりました。
川崎重工業によると、大阪国税局の税務調査により、2024年3月期までの6年間で十数億円の架空取引があったと指摘され、法人税などの追徴税額は約6億円に上るといいます。架空取引は工事に必要な資材の発注先となる複数の業者との間で行われ、捻出した資金は商品券や生活用品の購入、飲食費に充てられ、これらについて川崎重工業社員および潜⽔艦乗組員の関与があったとの疑いです。
また防衛省は、海上自衛隊が保有する潜水艦の修理業務に絡み、海上自衛隊員が製造元の川崎重工業の社員から金品を受け取った疑いがあると発表しました。川崎重工業と下請け会社の間で行われていた架空取引の収益を使って、川崎重工業が海上自衛隊員を接待していた可能性があるとのことです。
このように、税務調査により、架空外注取引が把握されるケースが後を絶ちません。というよりも、税務当局が対象会社の外注取引先を予め確認し、実在しないか稼働していない事業所だと把握してから税務調査が開始されるか、外注先からのリークが発端になって税務調査が開始されるケースがあります。国税庁では、例えば、勘定科目内訳書に記載されている外注先について、国税庁のシステム(KSKシステム)で検索し、当該外注先の課税事績と比較して、架空・水増しの当たりを付けているといわれています。
架空外注費と認定された場合、その行為は納税者による隠蔽又は仮装に該当するとして、法人税、地方法人税及び消費税等本税に加えて、重加算税が賦課決定処分されることになるので、厳に控えてください。
日銀の資金循環統計によれば、2024年第一四半期末の家計の金融資産のうち、現金が3兆2918億円減少に転じました。この数字には預金は含みません。タンス預金が流出したと言っても良いでしょう。残高ベースでは、108.9兆円もの現金が105.6兆円に減少したというものです。それにしても100兆円を超える現金が家計部門に積みあがっているのは驚きです。ところで現金が減った理由については、(1)日銀のマイナス金利解除にともなう銀行の預金金利の引き上げや(2)インフレ(3)新NISAの導入、そして(4)今月からの新紙幣の発行が考えられます。
そこで、新紙幣の発行とタンス預金について考えてみます。もともとタンス預金には問題があります。
まず1点目が、タンス預金をしていると、現金が火災や地震、洪水などの災害などで失われるリスクがあります。特に、火災や地震の保険などでは現金が補償の対象外となるため、焼失や紛失により保護されません。この点、金融機関に預金しておけば、仮に災害などの被害にあっても預金は守られることになります。
2点目が盗難リスクです。空き巣や強盗などの被害にあうことを想定すれば、余程頑丈な金庫などを準備しない限り、タンス預金が盗難されるリスクは無視できません。
3点目が紛失リスクです。特にタンス預金を長期間放置すると、本人も現金を保管した場所を忘れてしまい、気づかないうちに紛失してしまうリスクがあります。また、家族に隠していると、本人死亡の場合、遺族がそれを知らずに処分してしまうリスクもあります。
そして4点目が、遺産相続のトラブルになる可能性です。タンス預金は存在証明の根拠がないことが多いため、適正な遺産相続が行われなくなるリスクがあります。
高齢者の中にはタンス預金は相続税対策になると信じている人も少なくありません。相続税は相続財産が増えるほど負担が大きくなります。所有者がすぐに突き止められる預金や株などとは異なり、現金のままならば見つかりにくく、税務署に申告しなくてもバレないと考えるからでしょう。しかし、実際にはタンス預金は預金の流れを追うことで、ある程度は判明してしまうことがほとんどです。そして新紙幣の発行でそのリスクも高まりそうです。この機会に金融機関へのシフトや、次世代への生前贈与を検討ください。
相続税の申告は、すでに多くの方にとって身近な問題になっています。被相続人(亡くなられた方)が90歳なら、相続人は60~70歳です。今後、3人に1人が高齢者となる未来に向けて、相続税は親の相続のみならず、自分の相続も同時に考えなければならない問題として、ますます身近になってくるでしょう。
国税庁が公表した令和4年分の相続税の申告状況によると、令和4年分における被相続
人数(死亡者数)は1,569,050 人(前年対比 109.0%)でした。そのうち相続税の申告書の提出に係る被相続人数は 150,858 人(同112.4%)、亡くなった人に占める相続税申告をした人数の割合(課税割合)は全国平均で9.6%(前年は9.3%)でした。
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2023/sozoku_shinkoku/pdf/sozoku_shinkoku.pdf
この課税割合、都道府県別でみると、東京都が第1位で18.7%(前年は18.1%)でしたが、2位は愛知県で15.1%(前年は14.9%)で、1位2位は2年連続で変わっていません。
東京都は地価が圧倒的に高いので納得ですが、2位の愛知県が意外です。都道府県庁所在地の最高路線価は1位東京都、2位大阪市、3位横浜市で名古屋市は第4位です。
また、総務省の発表した「家計調査報告(貯蓄・負債編)二人以上の世帯」より、都道府県庁所在都市別の平均貯蓄ランキングを見ても、名古屋市がダントツ1位でもありません。
https://www.stat.go.jp/data/sav/sokuhou/nen/index.html
やはり、統計には現れにくい、事業用資産や自社株式などの評価がカウントされていると考えられ、その結果、愛知県の相続税課税割合が高くなっていると思われます。
当事務所でも相続税の申告を扱う件数は年を追うごとに増加しています。亡くなった後の相続税の申告はもとより、生前の相続税対策をぜひ一緒に検討してみたいと思います。
厚生労働省が令和6年2月に発表した人口動態統計の速報値(外国人らを含む)によると、令和5年に生まれた赤ちゃんの数(出生数)は過去最少の75万8631人で、初めて80万人を割った令和4年から5.1%減り、少子化が一段と進んでいます。
このため、令和6年度税制改正では、住宅ローン控除、住宅リフォーム税制について、子育て世帯等を優遇する措置が講じられましたのでお知らせします。
住宅ローン減税については、子育て世帯等が住宅ローン控除を受けようとする場合、住宅ローン等の借入限度額を、認定住宅は5,000万円(+500万円)、ZEH水準省エネ住宅は4,500万円(+1,000万円)、省エネ基準適合住宅は4,000万円(+1,000万円)に増額する措置を講じます。
ここで子育て世帯等とは、①年齢40歳未満であって配偶者を有する者、②年齢40歳以上であって年齢40歳未満の配偶者を有する者又は年齢19歳未満の扶養親族を有する者が該当します。現在子育て中の世帯だけではなく、今後子育ての可能性のある世帯も含まれています。この場合において、年齢40歳未満・年齢19歳未満であるかどうかの判定、その個人の配偶者または扶養親族に該当するかどうかの判定は、令和6年12月31日基準となりますのでご注意ください。
また、住宅リフォーム税制については、子育て世帯等が子育てに対応した住宅へのリフォームを行う場合に、標準的な工事費用相当額の10%等(最大控除額25万円)を所得税から控除する措置を設けます。子育てに対応した住宅へのリフォーム工事のイメージは、転落防止の手すりの設置や防音性の高い床への交換等です。
なお、令和6年度税制改正により、親や祖父母等から資金贈与を受けて住宅の取得等をした場合、 最大1,000万円までの贈与が非課税となる制度も延長されていますので、併せて活用ください。住宅ローン減税の特例の適用も受ける場合には、贈与税の申告もし、かつ、所得税の確定申告もする、ということになります。
65歳以上の高齢者が支払う介護保険料は3年に1度、その額の見直しが行われています。
先日の厚生労働省発表によると本年4月に改定された額について、最も高い自治体と最も安い自治体の間でおよそ6,000円の差があることがわかりました。「市町村別で最も金額が高いのは大阪市で9,249円。一方で、金額が最も安いのは、東京都小笠原村で3,374円。自治体によって、毎月の金額が最大で5,875円の差がありました。」というものです。
しかし、この数値はあくまでも「基準額」であり、被保険者一人当たりの平均的な負担額にすぎません。皆様の手元に届いた介護保険料の通知書とはかなり乖離があります。それは各人の「合計所得金額」によって異なり、かつその段階も変わったからです。
名古屋市の場合、令和3年度~5年度は、全15段階で、最高の第15段階は、本人の合計所得金額が1,000万円以上で年額199,273円でした。これが、令和6年度~8年度においては、全18段階で、最高の第18段階は、本人の合計所得金額が1,500万円以上で年額258,550円です。最高ランクの方は実に29.7%アップ、3割増になっています。
この「合計所得金額」が曲者です。退職金や上場株式の譲渡損失の繰り延べがある方は要注意です。
例えば令和5年分確定申告で給与等の総合所得が650万円とし、前年以前の上場株式譲渡損の繰り越しが△200万円あったとします。上場株式の譲渡損は3年間の繰り越しが認められていますので、翌年以降の上場株式の特定口座内配当と相殺して税金還付を申告します。令和5年の上場株式の特定口座内配当金900万円を申告して繰越控除をした場合、この繰越控除する前の配当所得900万円が総合所得650万円に合算されます。合計所得金額は、繰越控除前なので1,500万円を超えるので最高ランクになる、ということです。
わかりにくいですが、このように合計所得金額が各種税制、社会保障制度に影響を与えます。目下のテーマである「定額減税」の対象となるのは、本人の令和6年分の所得税に係る「合計所得金額」が 1,805万円以下という条件があります。本人の合計所得金額が1,805万円を超えればそもそも減税の対象外となるため、扶養親族が何人いても減税額はゼロということになります。これにもご留意ください。
マイホームの購入時、親子間でサポートが行われるケースは少なくありません(祖父母から援助を受けるケースもあります)。この場合、個人から個人への贈与となるので贈与税の対象となってきます。マイホームは高額なので、贈与額も必然的に高くなります。
暦年課税の場合、110万円以下なら非課税ですが、マイホームの資金としては不十分です。また相続時精算課税の場合は2,500万円までは非課税ですが、自分たちの老後資金や、のちのちの相続のことを考えると二の足を踏む人もいるでしょう。こうした時に活用されるのが「住宅取得等資金の非課税の特例」です。この特例を使うと最大1,000万円までの贈与が非課税となります。
この特例について、令和6年度税制改正では適用期限が令和8年12月31日まで3年間延長されたのですが、1,000万円までの上乗せ措置の対象となる「省エネ等住宅」の要件が一部引き上げられているので注意が必要です。
住宅取得等資金贈与に係る贈与税の非課税特例は、自己の居住用の住宅用家屋に係る新築等の対価に充てるため、父母や祖父母等の直系尊属から金銭の贈与を受けた場合、その住宅用家屋が一般住宅であれば500万円、「省エネ等住宅」に該当すれば更に500万円が上乗せされて1,000万円までの贈与が非課税となります。
問題は、ここでいう「省エネ等住宅」です。要件は、①エネルギーの使用の合理化に著しく資する住宅用の家屋、②大規模な地震に対する安全性を有する家屋、③高齢者等が自立した日常生活を営むのに特に必要な構造等の基準に適合する家屋として、国土交通大臣が財務大臣と協議して定める基準に適合するものとされています。このうち、①の省エネ性能の要件について、これまで断熱等性能等級4以上又は一次エネルギー消費量等級4以上だったものが、改正後は各等級が引き上げられ、断熱等性能等級5以上かつ一次エネルギー消費量等級6以上となりました。なお、②及び③の要件については、改正後も変更はありません。
この省エネ等級引上げは、住宅で消費する一次エネルギー消費量を抑えつつ再生エネルギー等を活用することで、一次エネルギー消費量の収支がゼロになることを目指すZEH(ゼッチ)水準に合わせたもので、所得税の住宅ローン控除のうち、令和6年度改正で維持された「子育て世代・若者夫婦世帯」の借入限度額が4,500万円となる「ZEH水準省エネ住宅」の要件と同様となっています。新基準を満たす住宅には、原則として改正後の「住宅性能証明書」が発行されますので、贈与額を検討する場合には、住宅メーカー等に早めに証明書の発行内容を確認してから、安心して贈与実行することをお勧めします。
参考情報↓
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000018.html
6月から定額減税が始まります。これを「月次減税事務」といい、対象となる従業員等(6/1甲欄在職者=「基準日在職者」)の配偶者や扶養親族の人数を把握するところから始まります。月次減税額は、従業員本人3万円に、合計所得金額が48万円以下(給与所得だけの場合は年収103万円以下)の「同一生計配偶者」及び扶養親族1人につき3万円を加算して計算するため、加算対象となる人数を把握しなければならないからです。
同一生計配偶者と扶養親族については、基本的に、昨年末の年末調整の際などに提出されている「扶養控除等申告書」を確認して把握するのですが、必ずしも加算対象となる人数と一致しない場合があります。
扶養控除等申告書で把握できるのは、「源泉控除対象配偶者」であり、従業員本人の合計所得金額が900万円以下で、合計所得95万円(給与所得の場合は年収150万円)以下の配偶者です。一方、定額減税の対象になるのは、従業員本人の合計所得金額に制限はなく、合計所得金額が48万円以下の配偶者です。また扶養親族では、「16歳未満の扶養親族」について、所得税の計算に影響しないことから、扶養控除等申告書に記載していない従業員がいます。このように記入漏れがあり得ますし、6月までに増減もあり得ますが、定額減税の対象になります。
このような場合、新様式の「源泉徴収に係る申告書」を基準日在職者に提出してもらう方法で把握できます。ただ、扶養控除等申告書での把握ミスや、基準日在職者によって確認する申告書が異なることによる給与担当者の事務負担の増加等に対して不安の声も聞かれます。これらを解消する観点等から、全ての基準日在職者から“源泉徴収に係る申告書”の提出を受け、確認作業を同申告書に一本化する運用をしても問題ありません。
そもそも源泉徴収に係る申告書は、基準日在職者が、月次減税額に源泉控除対象配偶者に該当しない同一生計配偶者の減税額を加算したい場合に提出するもので、対象となる同一生計配偶者と扶養親族が、扶養控除等申告書に記載されているのであれば、提出は不要ですが、法令上、提出を禁じているわけではありません。したがって、事務負担軽減等を理由に、全ての基準日在職者に対して、月次減税額の加算対象となる同一生計配偶者と扶養親族の全員を記載した状態で、源泉徴収に係る申告書の提出を求める対応をしてもよいということです。
「月次減税事務で減税漏れのないようにしたいので、全員提出してください」と伝達の上、基準日在籍者に配布するところから始めましょう。新様式の「源泉徴収に係る申告書」は下記です。
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/teigaku/pdf/0024002-044_01.pdf
3月27日の円相場は対ドルで下落、一時、1ドル=151円97銭近辺を付け、1990年以来、およそ34年ぶりの円安水準となりました。またその前日には土地の価値を示す公示地価が発表され、この地方でも住宅地・商業地で上昇傾向となりました。愛知県内の地価の平均変動率は、住宅地で去年より+2.8%。商業地でも、+4.2%と住宅地・商業地ともに3年連続で上昇し、岐阜県では商業地が、三重県では住宅地・商業地ともに32年ぶりの上昇となりました。また、日経平均が34年2カ月ぶりに最高値を更新しました。
このように、株価、土地価格、円相場がそろって34年ぶり(土地は32年ぶり)の水準と聞くと、まさにわが国は失われた30年だったと思わざるを得ません。
要因はコロナ禍が沈静化したこと、インバウンド含め観光客が回復傾向にあること、企業の稼ぐ力の向上やガバナンス(企業統治)の改善、インフレ型経済への移行の期待など様々言われています。
しかし、34年ぶりの円安水準というのは困りものです。日銀の政策修正後も、世界で突出して金利が低い状況は変わらないとの見方から売り圧力がとまらず、円買いが起こりにくい需給構造の変化も根底にあるようです。また新しいNISAでの投資信託購入により世界株や米国株などへの投資が増え、年2兆円規模で円売りが増えるとの見方があり、個人の海外志向が円安進行に影響しています。円安の長期化は大企業の業績に追い風になる半面、国内のインフレ圧力を高め特に個人消費に影を落とします。中小企業も賃上げ(しかも防衛的賃上げ)をしようとしても、輸入物価上昇の圧力から、実質賃金が上がらないことになりかねません。
今、皆様のお手元には税務署から「定額減税」のパンフレットが届けられていると思います。本来は、令和6年度税制改正のための税制改正法案が成立した場合の手続きですが、早くも広報活動が始まっているわけです。
成立はほぼ確定ですので、そのうちにマスコミやスーパーなどが大きく取り扱うはずです。しかし、この減税事務は税務署がやってくれるわけではなく、事業者が自ら従業員さんへ行うことになりますので、準備が必要です。
令和6年6月1日以後最初に支払われる給与・賞与(「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している従業員さんに限ります)につき源泉徴収される所得税の額から特別控除の額(本人3万円+扶養親族人数×3万円)に相当する金額を控除して支給し、控除した金額を給与明細に記入します。1回で控除できれば良いのですが、多くの従業員さんからは控除しきれません。その場合は、翌月以降に順次控除します。従業員さんの給与・賞与の手取りが多くなることから、関心も高まると思います。もちろん従業員さんだけでなく、役員の皆さんも対象です。
また個人事業主の方は、7月の予定納税から減額され、かつ予定納税時期も9月に延期されます。
普段の給与計算事務の扶養親族の人数と異なる場合もありますので、6月までに準備をすることをお勧めします。当事務所では今月、恒例のシーズンセミナーを開催し、定額減税の事務の流れを一緒に確認したいと思いますのでご参加ください(Zoomでもご参加いただけます)。
国税庁定額減税特設サイトはこちら↓
周知の通り、日経平均がバブル絶頂期の1989年12月に付けた最高値3万8915円をおよそ34年ぶりに更新し、3万9000円台乗せを果たすなど、株価の上昇が止まりません。
その背景には、(1)日本の上場企業の好調な業績(東京証券取引所「プライム市場」の上場企業を中心とする1430社の2024年3月期の純利益合計額が47兆円を突破し過去最高の見通し)、(2)アメリカの株高(ニューヨーク市場でもダウ平均株価が史上最高値を更新し続けています)、(3)株価を意識した経営(背景には東京証券取引所が資本コストや株価を意識した経営に取り組むよう企業に求めていることがあります)、(4)円安、(5)中国からの資金シフトなど環境面でプラス材料が多いとされていますが、そうした中で株価に好影響を及ぼしたとみられているのが、今年から大幅に拡充された新NISA(少額投資非課税制度)があります。これによって株を買う投資家層が広がっています。
日経による、「新NISAを使っているかどうか」の調査結果では、「はい(=使っている)」が72.8%となり、多くの人が新NISAを活用している実態が明らかになっています。「配当も永久に非課税、使わない道理がない」「新NISAは銘柄選定のやり直しが出来るから使い勝手が良い」など、旧NISAと比べた非課税制度の拡充や使い勝手の良さを評価する声が多いです。
また、上記(4)の円安にも新NISAが影響を与えています。円を売って、海外株式型の投資信託を買う動きが顕著だからです。ネット情報ではありますが、日本総研の試算によれば、NISA口座の増加とともに投資資金が海外資産にシフトし、今後4年で最大で対ドル6円の円安圧力になるといいます。実際、投資信託協会が発表した1月末の投信概況によると、新NISA効果で、上場投資信託(ETF)を除く公募株式投信の純資産総額(残高)は前月末比5兆円超増加し、過去最高を更新し、1兆3107億円の純資金流入のうち、6割強が海外株式型への流入だったようです。
しかし、税制上の落とし穴にはくれぐれもご注意ください。もともとNISAは他の商品と「損益通算」ができません。利益は非課税ですが、損失の場合には特定口座のように損益通算ができないというデメリットはお忘れなく。
2月16日から確定申告の受付が開始されます。毎年のことながら、当事務所ではかなり緊迫して所員一同、皆さんの申告書と向き合っています。
ところで、目下の税金に関する質問や苦情として多いのは、6月からの「定額減税事務」と今回のテーマである「政治資金の問題」です。
2か月前の当メールマガジンでも触れましたが、政治団体には、①政党、②政治資金団体、③資金管理団体、④後援会などのその他政治団体があり、「政党交付金の交付を受ける政党等に対する法人格の付与に関する法律」では、法人である政党等は、法人税法の規定の適用については公益法人等とみなされて原則非課税ですし、政党以外の政治団体は人格のない社団等として扱われ、こちらも原則非課税です。つまり、派閥からの政治資金パーティー収入の還流が議員の政治団体の収入と認定されれば課税対象とはならないことになります。
ところが、今回は不記載分に関して、政治活動に使用したのかどうか、具体的な使い道を説明できていない議員が多いことから、野党などが、議員個人の「雑所得」とみなし、所得税の課税対象とすべきだと主張しています。自民党の中からも、「仮に個人的に使われていた場合や、支出の事実が確認されない場合は、個人の所得として課税されるべきだ」と訴えがあり、岸田首相に対し、「党として早急な修正申告を指示し、納税させる対応が必要だ」とも要求しています。
国会審議で「脱税の疑いがある」などの批判が出ていることを踏まえたもので、国民の政治不信の払拭 につなげる狙いもあるようですが、国税当局も本気で税務調査に乗り出してほしいと思わざるを得ません。
固定資産税においては、土地・家屋について、3年に1回、評価替えを行い、価格の変化を反映することとなっており、令和6年度が評価替え年度です。
宅地については、地価公示価格等の7割を目途として評価することとされつつも、評価替えに際しては、価格の変動に伴う税負担の激変を緩和するための負担調整措置等も併せて行ってきました。
土地に係る固定資産税等の負担調整措置については、新型コロナウイルス感染症の影響等を踏まえ、令和3年度は、負担調整措置等により税額が増加する土地について前年度の税額に据え置き、令和4年度は、商業地に係る課税標準額の上昇幅を半減(改正前5%を2.5%へ半減)させる特別な措置が講じられたところです。しかしながら、令和5年度については、規定通りの負担調整措置(課税標準額の上昇幅は評価額の5%)が適用され、令和6年度の評価替え及び負担調整措置がどうなるか注目されていました。
令和6年度評価替えに反映される令和2年から令和5年までの商業地の地価の状況を見ると、大都市を中心とした地価の上昇と地方における地価の下落が混在する状況が継続しています。名古屋圏の住宅地価公示価格はこの間に2.3%、商業地では3.4%上昇しています。このため、令和6年度評価替えにおいては、大都市を中心に、地価上昇の結果、負担水準が下落し据置ゾーン(時価に対して評価額を60%から70%までの範囲)を下回る土地が増加するなど、負担水準のばらつきが拡大することが見込まれるところであり、まずは、そうした土地の負担水準を据置ゾーン内に再び収斂させることに優先的に取り組むべきとされました。このような状況を踏まえ、令和6年度から令和8年度までの間、土地に係る固定資産税の負担調整の仕組みと地方公共団体の条例による減額制度を継続することとされました。
固定資産税の課税標準額については、以上のように負担調整措置及び条例減額制度の適用がありますが、固定資産税評価額そのものは3年に一度の評価替えにより上昇が見込まれます。このことから、令和6年度は、相続税等の土地の評価額、不動産取得税・登録免許税の対象額が上昇することに留意が必要です。ぜひ今後郵送される固定資産税通知書をよくご覧いただき、固定資産税評価額と課税標準額に目配りして下さい。
昨年末、与党の税制改正大綱が公表されました。そのため、年度末までに派閥裏金問題などで政局が大荒れにならない限り、このまま定額減税が行われる見通しです。
デフレに後戻りさせないための措置の一環として、令和6年の所得税・個人住民税の定額減税が実施されます。具体的には、納税者本人及び配偶者を含めた扶養家族1人につき、令和6年分の所得税3万円、令和6年度分の個人住民税1万円の減税(特別控除)を行うこととし、令和6年6月以降の源泉徴収・特別徴収等、実務上できる限り速やかに実施します。なお、合計所得金額1,805万円超(給与収入のみの場合、収入2,000万円超に相当)の高額所得者については対象外となります。
給与計算等担当者の方の実務では、 令和6年6月1日以後最初に支払を受ける給与等(賞与を含むものとし、給与所得者の「扶養控除等申告書」が提出されている者が対象です。)につき源泉徴収をされるべき所得税の額から、特別控除の額に相当する金額を控除し、控除しきれない部分の金額は、以後に支払われる当該給与等から、順次控除することになります。
定額減税のうち、住民税については、令和6年6月に給与の支払をする際は特別徴収を行わず、特別控除の額を控除した後の個人住民税の額の 11 分の1の額を令和6年7月から令和7年5月まで、それぞれの給与の支払をする際毎月徴収することになります。
定額減税の対象となるのは、本人の所得が1,805万円以下という条件があり、また、所得金額が48万円以下の扶養親族がいる場合に減税額が加算されます。つまり、本人の所得が1,805万円を超えればそもそも減税の対象外となるため、扶養親族が何人いても減税額はゼロということです。例えば不動産投資をしているような場合、物件の売却益が発生すれば所得に加算され、突発的な利益によって減税を受けられなくなる可能性があります。
減税と言えば聞こえは良いですが、制度が複雑で、給与計算の担当者やシステム担当者はかなり大変(税理士事務所も同じ)です!
皆様、明けましておめでとうございます。
昨年末、令和6年度税制改正大綱が発表され、来年度の税制をどうするかについて、政府からのメッセージが届きました。キーワードは「『安いニッポン』からの脱出」です。
まず、大綱では、我が国の現下の経済環境を次のように分析します。
「デフレ下では、良い製品を生み出しても、高く売れず、働きが評価されず、賃金も上がらず、経済も成長しない。さらにその状態が四半世紀に及んだ結果、世界の物価・賃金との差が拡大した。いわゆる『安いニッポン』である。デフレ構造に逆戻りするわけにはいかない、このことを社会の共通認識とする必要がある。」
「わが国においては、長引くデフレの中での『コストカット型経済』の下で、賃金や国内投資は低迷してきた。賃金水準は実質的に見て30年間横ばいと他の先進国と比して低迷し、国内設備投資も海外設備投資と比して大きく伸び悩んできた。その結果、労働の価値、モノの価値、企業の価値で見ても、いわゆる『安いニッポン』が指摘されるような事態に陥っている。その一方で、大企業を中心に企業収益が高水準にあったことや、中小企業におい
ても守りの経営が定着していたことなどを背景に、足下、企業の内部留保は 555 兆円と名目GDPに匹敵する水準まで増加しており、企業が抱える現預金等も 300 兆円を超える水準に達している。」
いかがでしょうか。財政当局のイライラ感が伝わってきます。
だから、企業が収益を現預金等として保有し続けるのではなく、賃金の引上げや前向きな投資、人への投資に積極的に振り向けるような後押しを税制改正で行う、というわけです。具体的には、賃上げ促進税制や国内投資促進税制(戦略分野国内生産促進税制、イノベーションボックス税制、スタートアップ関連税制等)の強化を図ることとし、その一方で、それらに消極的な企業に対しては、一定のディスインセンティブ措置により行動変容を促す取組みも行われます。
しかし、中小企業にとっては、安心して賃上げできる環境下ではなく、戦略分野国内生産促進税制、イノベーションボックス税制、スタートアップ関連税制等と言われても直接の行動変容には繋がりそうもなく、大企業の行動変容に期待するばかりです。