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令和4年12月19日-与党税制改正大綱決定~防衛増税~-

自民、公明両党は12月16日、令和5年度の与党税制改正大綱を決定しました。焦点だった防衛費増額の財源は、法人、所得、たばこの3税を増税する方針を盛り込みました。法人税は4~4・5%、所得税は1%を税額に上乗せし、たばこ税は1本換算で3円引き上げる方針です。 

 ただ、議論が拙速だと自民党内ですら、批判が噴出し、増税時期は6年以降の適切な時期として明示していません。防衛増税の法案化を見送り、来年に議論を持ち越すことになります。

今回は消費増税以来の大型増税です。消費増税のときは社会保障の中身をそれなりに詰めた上で税率を議論していましたが、今回は防衛費を国内総生産(GDP)の2%にするとか、43兆円にするとか、中身より先に総額が決まったもので、国民からすれば、請求書の中身が分からないまま負担だけを決めるような印象の手順です。

日本経済新聞では、「わたしたちは防衛力強化の議論は国民の理解を得ながら丁寧に進めてもらいたいと主張してきた。にもかかわらず、その中身の大半が明らかになったのは12月に入ってからである。増税方針も含め、拙速感は否めない。歴史的な安保政策の転換だけに政府は今後の国会審議などで野党の意見に真摯に耳を傾け、建設的な議論をすることで国民の幅広い支持を得る努力をすべきだ。」と社説で述べていますが、まさしくその通りです。

 

令和4年12月1日-来年度改正見通し?~消費税インボイス制度と電子帳簿保存法の緩和に注目-

来年10月から始まるインボイス制度(適格請求書等保存方式)においては、免税事業者はインボイス=適格請求書を発行できず、その結果、免税事業者からの仕入れについては仕入税額控除ができません。

3年間は8割控除できるという経過措置がありますが、それでも反対声明が相次いでいます。例えば脚本家やシナリオ作家など6団体は、コロナ禍で、エンタテインメント・芸術分野に携わる個人事業者が疲弊している中に、物価高騰も伴う状況下において、インボイス制度は「弱者である免税事業者を狙い撃ちするかのような制度」と言及しています。課税事業者であっても、「複雑な制度による、事務負担や税務執行コストの増加は、表現活動に大きく影響を及ぼす」としています。

一方、最近は徐々に免税事業者から課税事業者に転換する動きがみられますが、このような取り組みを後押しするために、免税事業者から課税事業者に転換して消費税を新たに納めることを選んだ中小事業者に対し、税負担を和らげる激変緩和措置の導入を検討していることが報じられました。与党の税制調査会で年末までに詳細を詰め、2023年度税制改正大綱に盛り込むとのこと。簡易課税の特例のような措置が検討されているようです。具体的な姿は見えてきませんが「みなし仕入率」を80%とする(預り消費税の2割納税)との報道もありました。

もう一つが、小規模事業者等への事務負担軽減のために、少額取引についてはインボイスの保存がなくても帳簿保存によって仕入税額控除を可能とする経過措置も検討されているようです。しかし、現在認められている少額取引特例(支払対価の額が3万円未満である場合に帳簿保存のみで仕入税額控除を認める特例)廃止が復活するという話ではないので、相変わらず振込手数料問題は気がかりです。

また、電子帳簿保存法2年間の書面保存要件(令和3年改正)のさらなる緩和に期待が集まります。電子帳簿保存法のうち電子取引に係る部分は、令和3年度改正で、電子取引は紙での保存は認めないことになったのが、令和4年度改正で一転2年間の猶予措置が講じられました。

しかし、顧問先の中小企業や一部の大企業からは、「新たな検索要件(日付・金額・取引先)に対応するのは難しい」「2年間の猶予でも間に合わない」との指摘があります。スキャナー保存の要件も含めて、緩和されることが併せて報じられましたので、大いに期待します。

 

令和4年11月16日-経営者保証の制限に期待-

経営者が自社の融資を受ける際に行う連帯保証は、かねてより問題が指摘されていました。倒産した時に会社資金で融資を返済できなければ、経営者の私財で返済するので、個人破産も射程に入れなければならず、再起しようとしても新規融資を受けにくくなり、起業が進まない一因となっています。また、事業承継時にリスクととらえられ、後継者が見つからない要因でもあります。

そのような中、金融庁は2023年から、金融機関の中小企業向け融資で経営者が個人で背負う「経営者保証」を実質的に制限する方針を発表しました。

 メガバンクや地域銀行、信用金庫といった預金取扱金融機関は保証の必要性など理由を具体的に説明しない限り、経営者保証を要求できなくなるとのことです。これにより、個人が起業しやすい環境が整備され、一方で金融機関側は融資先に対する目利き力を問われることになります。

具体的には、金融機関が融資時に経営者保証を求める場合には説明義務を課し、その内容を記録して金融庁に件数を報告することが義務付けられます。金融庁はヒアリングや検査を実施して、手続きに違反があったり、企業とトラブルが起きたり、自主的に改善が期待できなければ行政処分の対象にするようです。

経営者保証については2013年に全国銀行協会と日本商工会議所の研究会が策定した「経営者保証に関するガイドライン」に沿って、金融庁が金融機関に経営者保証に依存しないよう要請していました。しかし、現状では経営者保証を付けない中小企業向け融資件数は全体の約3割にとどまっており、今回、規制の一部に組み込むことで、金融機関の保証依存体質の解消を図ることにしたものです。ガイドラインでは経営者保証を取らない要件として①法人・経営者の関係が区分・分離されている②財務基盤が強固③適時適切な情報開示をしている――の3つを定めています。今回の改正案では金融機関に対し、「どの部分が十分ではないために保証が必要になるのか」「どのような改善を図れば保証の変更・解除の可能性が高まるか」を説明するよう求めることになります。

ただ、金融機関が経営者保証をつけないことで融資を渋り、中小企業の資金繰りが悪化することは避けなければならず、そのために金融庁が監視するという機能が適切に働くことを期待します。

参考↓

https://www.fsa.go.jp/news/r4/ginkou/20221101/01.pdf 

 

令和4年11月1日-年末調整事務の注意点~所得金額調整控除~

令和4年もあと2か月です。早くも年末調整の季節となりましたが、年末調整時において「所得金額調整控除申告書」欄の記載を失念し、適用を放棄した状態となっているケースが散見されるといわれています。この制度、なかなか複雑なのですが、共働き世帯では適用漏れの内容にご注意下さい。

令和2年(2020年)の改正では、サラリーマンの必要経費である給与所得控除額が一律10万円カットされました。これだけ見るとすべての人の給与所得控除が引き下げられ、その結果、課税所得額が上がって税金が増えるように見えます。しかし、実際には基礎控除の改正(10万円アップ)も同時に行われたので、高所得者(?)以外の税額は変わりません。

この改正の影響を受けたのは、年収が850万円を超える人ということになります。ただし、子育て世帯や介護世帯については、この改正の影響が出ないよう調整(これが「所得金額調整控除」)されましたので、厳密には、改正の影響があったのは「子育て、介護世帯ではない年収850万円超の人」ということになります。

この控除は、扶養控除と異なり、同一生計内のいずれか一方のみの所得者に適用するという制限がありません。したがって、例えば、夫婦ともに給与等の収入金額が850万円を超えており、夫婦の間に1人の年齢23歳未満の扶養親族である子がいるような場合には、その夫婦双方が、この控除の適用を受けることができます。

所得金額調整控除は、令和2年分以後の所得税から適用されていますが、従業員等の認識不足などにより年末調整時に同申告書欄の記載が漏れ、本来であれば対象となるものの適用していないケースが散見されるといわれています。所得税における所得金額が個人住民税の算出のベースとなるため、適用漏れは個人住民税の負担増にもつながります。

特に、初めて収入金額が850万円を超えた者が失念しやすいことなどから、顧問先企業様(源泉徴収義務者)は、年末調整時において該当者に対し個別に注意を促すなどの工夫も必要となります。

なお、過年分の所得税の計算で同措置の適用を受けていなかったことが明らかとなった場合は、控除が漏れていた年の翌年11日から5年以内に還付申告書を提出することで還付を受けることができます。

令和4年10月17日-大企業の減資相次ぐ~外形標準課税を見直しへ

資本金が1億円を超える大企業なら払うべき「外形標準課税」という税金を逃れようと、資本金を減らす動きが続いています。地方税の法人事業税である外形標準課税は、赤字の企業も人件費などに応じて納める必要があります。地域の行政サービスを利用する以上、利益の多寡とは別に、一定の対価を払ってもらうためです。この減資の動きに、朝日新聞の社説は「大企業の減資・税の欠陥・早期に見直せ」という論評を発信しています。

この税金を納める企業数をみると、2006年度には約3万社あったものが、その後14年連続で減少し、2020年度は初めて2万社を下回ったとのことです。コロナ禍で苦境に陥った旅行業界でも減資が相次ぎます。昨年のJTBや日本旅行に続き、今年8月には、HISも資本金を1億円ちょうどに減らすと発表しました。開示文書でも「税負担の軽減を図る」と明らかにしています。

 資本金を1億円以下にすれば、中小企業として、外形標準課税が免除されます。この仕組みを使い、赤字になった大企業が税務上の中小企業になる事例が後を絶たないわけです。中小企業への配慮を逆手にとった節税が黙認されるようでは、税の公平が保てないので、年末の税制改正で着実な是正策をとるよう、政府与党に求めたい、というのが社説の主張です。

 中小企業が外形標準課税を免除されているのは、規模の小ささがもたらす不利に配慮した特例です。事業の実態は大企業なのに、その優遇を受けるのは筋違いといわざるをえません。

 総務省もようやく、こうした動きに歯止めをかける検討に入りました。8月に有識者会議を設置し、議論を進めています。資本金だけで課税の線引きをする欠陥を改め、ほかの基準と組み合わせる案が有力で、売上高や従業員数などが新たな基準の候補にあがっています。

 朝日新聞の社説はこれまでも、同様の是正策をとるよう政府与党に求めてきました。コロナ禍の経営難は、政府が用意した資本増強や資金繰りなどの支援策で乗り切ることが望ましく、税の公平性をゆがめることは看過できないと考えたからです。

経済活動が正常化してきたいま、不合理な仕組みをこれ以上放置することなく、税制改正の議論の遡上に上がることを期待します。

令和4年10月3日-暗号資産(仮想通貨)に係る税制改正の動向-

金融庁と経済産業省が、企業の保有する暗号資産(仮想通貨)にかかる法人税の課税方法について見直す方針を固め、税制改正要望をしました。
 仮想通貨と暗号資産に大きな違いはなく、どちらも電子データであり、暗号化された財産的価値のことを指します。仮想通貨にはビットコインやイーサリアム(ETH)をはじめとする代表的な銘柄がいくつかあり、ブロックチェーンと呼ばれる技術によって、記録・管理がされています。昨今、暗号資産市場の大幅な拡大・成長(時価総額、取引金額増)や、新たな利活用の拡大(NFT、メタバース)が進展していますので、皆さん個人が投資したり、法人で活用したり、だんだんとビジネス社会に溶け込んでいます。
 しかし、税務上、大きな問題点が多々あります。
 法人が有する暗号資産(活発な市場が存在するもの)については、税務上、期末に時価評価し、評価損益(キャッシュフローを伴わない未実現の損益)は、課税の対象とされています。こうした取扱いは、キャッシュフローを伴う実現利益がない(=担税力がない)中で、継続して保有される暗号資産についても課税を求めるものであり、国内においてブロックチェーン技術を活用した起業や事業開発を阻害する要因として指摘されています。金融庁らが検討する新たな仕組みでは、発行した企業が自ら保有する暗号資産については期末の時価評価の対象から外し、売却などで利益が生じた時点で初めて課税する形の方針をとるとのことです。
 現在国内でブロックチェーンやNFTなど「web3」の分野で事業を行う企業は、自社が保有する暗号資産について、期末の「時価」をもとに課税される仕組みとなっているため、「含み益」に対して税金がかかることから、「トークン(暗号資産)」を発行した創業間もないweb3スタートアップには資金繰り面で負担が大きいとの指摘が相次いでいたようです。
 今回国内において税制の見直しを検討することで、スタートアップの成長を阻害しないよう配慮し、海外流出を防ぐことが狙いだと考えられます。なお一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)と一般社団法人日本暗号資産取引業協会(JVCEA)も税制改正要望書を取りまとめ、金融庁へ提出しています。
 国内投資家にとって、もう一つの負担が、利益に対して課税が株やFXのように分離課税でない(雑所得扱い)ことです。暗号資産取引にかかる利益への課税方法は、20%の申告分離課税とし、損失については翌年以降3年間、暗号資産に係る所得金額から繰越控除ができることも要望していますが、当然の要望事項だと考えます。この部分の検討がどのように進んでいくのか、2023年度税制改正に盛り込まれるのかも引き続き注目です。

令和4年9月16日-金融教育 国家戦略に-

日本経済新聞で「金融教育、国家戦略に」と大きく報じられました。金融庁は「新しい資本主義実現会議」において、金融教育を国家戦略として推進する体制づくりを提言するとのことです。

岸田文雄首相が掲げる資産所得倍増プランの目玉は、NISA(少額投資非課税制度)の恒久化ですが、これはあくまで投資の枠組みの改良の話にすぎません。適切な資産形成を加速させるためには当然のことながら、買い手(個人投資家)と売り手(金融機関)のリテラシー向上が欠かせません(「リテラシー」とは、「膨大な情報の中から必要な情報を抜き出し、活用する能力」という意味で使われることが多くなっています)。

 現状、大学生や社会人向けに正式な金融教育がおこなわれる機会は提供されておらず、民間の金融機関や運用会社などが主体的に取り組んでいるのが実情であり、これを改善すべく、官民が連携して金融教育を推進する体制を作り上げ、全世代を通じて平等に金融教育を提供するのが狙いです。

 日本経済新聞によれば、米国では2000年代初頭に金融リテラシー教育委員会(FLEC)、2010年に「金融能力に関する大統領諮問委員会」が設置され、国家戦略として労働者の資産形成を促してきたとのことです。

 しかし、そもそも実践的な金融を教えることができ、さらに個人としても十分な資産を築いた実績がある人材はどれぐらいいるのだろうか。教える側の数が圧倒的に少ない現状をどうするのだろうか。安易に国家戦略にしてしまうと、高額な金融教育商材を売りつけるだけで中身が何もない悪徳業者が大量発生するようなことになりはしないか。などなど危惧されます。

令和4年9月1日-医療機関におけるオンライン資格確認の義務化-

 政府は、2022年6月7日の閣議決定で、来年2023年4月からオンライン資格確認を原則として導入することを決定しました。医療機関の方には周知のとおりですが、国⺠一般にはそのことはあまり知られていないのが現状です。
 「社会保障分野における経済・財政一体改革の強化・推進」の中では、次のように明記されています。「オンライン資格確認について、保険医療機関・薬局に、2023年4月から導入を原則として義務付けるとともに、導入が進み、患者によるマイナンバーカードの保険証利用が進むよう、関連する支援等の措置を見直す。2024年度中を目途に保険者による保険証発行の選択制の導入を目指し、さらにオンライン資格確認の導入状況等を踏まえ、保険証の原則廃止を目指す。」とあります。
 政府は2022年度末までに全国⺠にマイナンバーカードが行き渡る目標を掲げ、「マイナポイント」を付与するなど誘導策を講じています。しかし、取得率は5月1日時点で44.0%に過ぎないと言われています。マイナンバーカードの取得は任意だが、保険証が廃止となれば事実上の義務化となります。マイナンバーカードを取得していない方々にとっては由々しき問題です。普及が進まない背景には、国による情報の一元管理と漏えいへの不安と、政府への不信感があります。
 なお、オンライン資格確認については2022年度末までにほぼ全ての医療機関が導入する目標を掲げ、顔認証付きカードリーダーは、医療機関・薬局に無償提供(病院3台まで、診療所等1台)する政策や、初期投資の補助金、「電子的保健医療情報活用加算」が新設されています。
 今のところ、医療機関の受付において、マイナンバーカードによる資格確認の利用をしている場面は見たことがありませんが、来年度からは本当にスタンダードになるのでしょうか。

https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000977518.pdf

令和4年8月1日-節税を主たる目的として販売される保険商品に注意-

 保険業界では、以前から節税効果のある保険商品(例えば、経営者向けの保険で支払い時に保険料が損金となるが、数年後に多額の解約返戻金が受け取れるもの)を販売していましたが、いわゆるバレンタインショック(通達の改正。周知された日が2月14日でした。)が行われ、販売停止となったことは記憶に新しいところです。

 しかし、その後も、生命保険会社は、新たな節税商品を開発しました。マニュライフ生命保険への行政処分で問題となった低解約返戻金型定期保険等の名義変更プランもその1つです。これは、保険期間のうち一定期間の解約返戻率を低く抑えた保険で、当初の契約者は法人で、解約返戻率が低いうちに個人に名義変更をし、その後、個人が保険を解約するスキームです。
 解約返戻率が低い時点での名義変更であることから、法人が受け取る解約返戻金と保険積立金の差額が損失となり法人税等の節税ができ、かつ、個人が保険を解約した場合は一時所得となるので、低い所得税等の負担となるものです。この保険商品も当局において問題視されて通達の改正が行われ、名義変更時に法人において損金が生じないように手当てされたはずでしたが、その後も通達に規定されている保険内容とは異なる商品を利用して募集をしていたというのが行政処分理由の一つとのことです。

 これら「節税(租税回避)を主たる目的として販売される保険商品」について、2019年の国税庁による通達改正の周知、金融庁からも累次にわたり注意喚起を行っていたにもかかわらず、依然として保険本来の趣旨を逸脱するような商品開発や募集活動が確認されており、先月(7月)ついに金融庁は、商品審査段階及びモニタリング段階において国税庁との連携を更に強化することを発表しました。
 今後は、両庁の定期的な意見交換の場等を通じて、①国税庁から金融庁に対して、保険商品に関する節税(租税回避)スキームの情報提供、②金融庁において、国税庁からの情報や独自に把握した情報を活用し、保険会社・保険代理店における募集管理態勢の整備状況や販売実態等のモニタリング等を実施、③金融庁から国税庁に対して、商品開発や募集現場で利用されるスキームの情報提供を行うことになりました。
節税を主たる目的として販売される保険商品により注意が必要です。

(参考)金融庁:節税(租税回避)を主たる目的として販売される保険商品への対応における国税庁との更なる連携強化について
https://www.fsa.go.jp/news/r4/hoken/20220714-2/20220714-2.html

令和4年7月15日-令和4年分路線価 地域に明暗-

 国税庁が7月1日公表した2022年分の路線価(1月1日時点)は、名古屋国税局管内(東海3県と静岡県)の平均変動率が前年比0.2%増と、2年ぶりに上昇しました。コロナ禍により、昨年は局平均で全国最大の下落率となりましたが、大規模再開発が続く名古屋市中心部を軸に回復が進んでいます。
 特に大規模再開発事業が相次ぐ栄地区周辺の上昇が目立ち、名古屋国税局管内で最も上昇率が高かったのは、当事務所が位置する名古屋市東区久屋町8丁目(久屋大通り)の8.7%増でした。

 全国的には、都道府県別では地方を中心に27県(岐阜県、三重県他)で依然下落している一方、20都道府県(愛知県他)で上昇しています。コロナ禍の影響を回復しつつありますが、インバウンド需要が戻り切っていない観光地やテレワーク増加で陰りの見えるオフィスエリアなどでは下落が続いています。
 例えば、路線価の全国1位は37年連続で東京都銀座「鳩居堂」前で、4,224万円/㎡ですが、9年ぶりに下落した昨年から、さらに1.1%下落しています。また、外国人観光客が急減した岐阜県高山市では、昨年に続いて最高路線価で全国ワースト2位の下落率となるマイナス8.3%となっています。
 コロナ禍前の2019年は外国人観光客数が60万人と過去最高を更新しましたが、2020年は6分の1の約10万人に落ち込み、2021年は約3,000人とインバウンド需要は蒸発しました。このように、宿泊施設や飲食店の需要減が地価を下落させていることが明白です。

 これまで新型コロナウイルスの影響を受けたものの、ようやく落ち着きをみせつつありますが、依然、ウクライナ情勢の混迷や原材料の高騰などが懸念されるところであり、不動産市場をはじめとする国内経済への影響が危惧されます。

令和4年7月1日-「持続化給付金」の不正受給事件の後始末-

 「持続化給付金」の不正受給事件で逮捕・起訴された東京国税局の職員が、ほかにも嘘の申請をして100万円をだまし取ったとして詐欺の疑いで再逮捕されました。この国税局職員は、証券会社の元社員らとともに持続化給付金を不正に受給したとして逮捕・起訴されていました。
 警視庁はグループが大学生を中心とする若者を勧誘して嘘の申請をさせ、これまでに合わせて2億円を不正に受給した疑いがあるとみて調べているそうです。
 さて、中小企業庁は、給付要件を満たさないにも関わらず誤って申請し、給付金等を受給した場合、自主返還を呼び掛けています。受給者が申請誤りにより自主返還した場合、受給した年と返還した年の所得計算にどのような影響が及ぶか気になります。
 その対応は受給者の所得区分に応じて異なることになります。
 所得税法では、事業所得者を除き、その年分の所得金額の計算の基礎となる収入金額等につき、「その全部又は一部を回収することができないこととなった場合、又は一定の事由によりその全部又は一部を返還することとなった場合、回収できなかった金額・返還すべきとなった金額は、所得計算上なかったものとみなす」とする特例が置かれています。
 もともと、コロナ禍に減収した事業者支援のための持続化給付金は、本業の収入に係る所得区分に応じて、事業所得・一時所得・雑所得の3つに分かれていました。したがって、この特例を踏まえた場合、各年の所得計算の対応は、事業所得者以外と事業所得者に分かれることとなります。事業所得者以外が申請誤りにより100万円全額を自主返還した場合であれば、令和3年分の所得金額(100万円)はなかったものとみなされ、その所得金額に対応する納税額分は更正の請求により還付を受けることができます。一方、事業所得者の場合は、収入した年分と返還した年分が異なってもかまいません。自主返還した場合には、令和4年分での必要経費にすることができることになります。

令和4年6月16日-「もはや昭和ではない」男女共同参画白書-

 政府は6月14日、2022年度版「男女共同参画白書」を発表しました。
 その冒頭で、家族の姿を、「もはや昭和ではない」と断言し、個人単位の社会制度を提起しています。
 すなわち、「昭和の時代、多く見られたサラリーマンの夫と専業主婦の妻と子供、または高齢の両親と同居している夫婦と子供という3世代同居は減少し、単独世帯が男女全年齢層で増加している。人生100年時代、結婚せずに独身でいる人、結婚後、離婚する人、離婚後、再婚する人、結婚(法律婚)という形を取らずに家族を持つ人、親と暮らす人、配偶者や親を看取った後ひとり暮らしをする人等、様々であり、一人ひとりの人生も長い歳月の中でさまざまな姿をたどっている。このように家族の姿は変化し、人生は多様化しており、こうした変化・多様化に対応した制度設計や政策が求められている。」と述べています。また、「令和2年の50歳時の未婚割合は、女性は17.81%であり、50歳の女性の約6人に1人は結婚経験がない。男性は28.25%となり、50歳の男性の約4人に1人は結婚経験がない。」とショッキングな数字を紹介しています。
 税務や労務の分野でも、制度変革が必要です。
 平成29年税制改正において、配偶者控除が満額適用される配偶者の給与収入を103万円から150万円に引き上げ、同時に納税者本人に配偶者控除の適用を受けるための所得制限を設ける見直しを実施しています。平成30年分以降は、控除を受ける納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超える年については、配偶者控除は受けられません。
 また、社会保障制度については、段階的に短時間労働者への被用者保険(健康保険・厚生年金保険)の適用拡大を進めており、平成28年に従業員500人超規模の企業への適用拡大を行い、令和4年10月から従業員100人超規模、令和6年10月から50人超規模の企業への拡大を予定しています。
 一方、家族手当を支給している企業は減少しつつありますが、依然として令和3年時点で全国の民間事業所の約4分の3が家族手当を支給しており、さらにそのうち約4分の3が配偶者に家族手当を支給し、配偶者の収入による制限がある企業は86.7%で、その多くが103万円(45.4%) 又は130万円(36.9%)といった、いわゆる「年収の壁」と連動した収入制限を設けているとのことです。
 このように、税制、社会保障制度、企業の配偶者手当といった制度・慣行が、女性を専業主婦、または妻は働くとしても家計の補助というモデルの枠内にとどめている一因ではないかと考えられます。更なる取組が必要であると言わざるを得ません。


参考 https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r04/zentai/index.html

令和4年6月1日「誤送金」!国税徴収法に基づき4299万円の確保

山口県阿武町では非課税世帯給付金4630万円をある町民に誤送金。送金を受けた人が別の決済代行業者に送金し、「カジノで使い切ってしまった」と主張して問題になりました。その後、「国税徴収法」に基づき法的に4299万円を確保したというニュースが飛び込み、「国税徴収法」がにわかにクローズアップされました。

 

地方税や公課の滞納処分では、法令に載っていないことは国税徴収法の例によります。国税徴収法には自治体に「調査権」というものが認められ、滞納者の口座を照会する権限を持ちます。滞納者は口座情報、どこに送金したかが、すぐに把握されます(金融機関なども基本的には照会に応じなければなりません)。

 ところで、記事の書きぶりは、例えば「花田憲彦町長が24日、町内で記者会見し、約4,299万円を法的に確保したと明らかにした」とあります。「回収」とは書かず「確保」と書いています。これは、国民健康保険税の滞納が「公債権のうち強制徴収債権」にあたるので差押え可能ですが、4630万円の「不当利得返還請求債権」は「私債権」にあたり差押えできないためです。

「国保税の滞納だけで、全額差押えするなんて超過差押えじゃないのか?」という疑問が出てきます。超過差押えとは「滞納者の滞納額を超えて差押えをすること」で、このような差押えは違法行為となります。しかし、債権の差押えには次の条文があります。(国税徴収法第63条)「徴収職員は、債権を差し押えるときは、その全額を差し押えなければならない。ただし、その全額を差し押える必要がないと認めるときは、その一部を差し押えることができる。」今回の決済代行業者の口座の差押えは「債権」の差押えにあたるので、原則は全額差押えで、例外的に部分的に差し押さえることとなります。そのため、阿武町として「その全額を差し押える必要がある」と認めれば、全額を差し押さえても問題ありません。

 

したがって、確保した4,299万円ですが、国税徴収法ではいつまでもお金を確保して留め置くことはできません。

ネット上では、「とはいえ、仮に釈放後に交渉に応じず、口座を指定して逃げだしたとしたら、阿武町はお金と手間をかけてでも、返金した瞬間に、裁判所へ仮差押えの請求手続きを行うことになるだろう」と書かれているのを見て、なるほど、阿武町にアドバンテージがあるのだと思いました。

令和4年5月16日-本当に始まりそうなインボイス制度への対策を!-

国税庁は428日、「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQA」を改訂しました。曰く、「寄せられた質問等を踏まえ、端数分の値引きの取扱いなど新たに事例を5問追加しています」。つまり、いよいよ消費税インボイス導入に向けた経済界の取り組みが始まっていると言えます。

 

今回追加された(QA101)のが、「免税事業者からの課税仕入れに係る経過措置を適用する場合の税額計算」です。顧問先さんと相談していると、この課題に関しての仕入れ業務システムの見直しが難問であることを痛感していますので、ご紹介します。

 

インボイス制度では、免税事業者からの仕入れには原則、仕入税額控除を適用できません。しかし、制度開始の令和5101日から令和8930日までは「仕入税額相当額の80%」、令和8101日から令和11930日までは「仕入税額相当額の50%」を仕入税額とみなして控除できる経過措置があります。

本経過措置の適用に当たり、具体的な仕入税額控除の計算方法が示されました。

「仕入税額に『積上げ計算』を適用している場合、本経過措置の適用においても『積上げ計算』による計算が必要で、本経過措置の適用を受ける課税仕入れの都度、『課税仕入れの支払対価の額×7.8/110 1 ×0.8 2 』で仕入控除税額を算出する。『割戻し計算』の場合も同様の算式で計算する。

1 軽減税率の対象の場合は『7.8/110』を『6.24/108』とする

2 令和8101日から令和11930日の期間は『0.8』を『0.5』とする」

 

一読しただけではとても分かりにくい表現ですが、この内容でシステム変更に取り組まなければならない企業側の負担は相当なものです。特に、業務システムに関連するので、経理だけでなく、業務担当者を早めに巻き込んだ対策が望まれます。

 

国税庁「消費税の仕入税額控除制度における 適格請求書等保存方式に関するQ&A」

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf#page=135

令和4年5月2日-相続マンション、路線価認めず課税「適法」 最高裁判決-

富裕層や税理士がドキリとする最高裁判決が出ました。

判決によると、相続人は2012年、父親から東京都内などのマンション2棟を相続し、路線価を基に評価額を計約33千万円とした上で、購入時の借り入れと相殺して相続税を0円と申告。国税当局は不動産鑑定に基づき、評価額を計約127千万円と見直し、約3億円を追徴課税したというものです。

最高裁は419日、国税当局の処分を適法とし、相続人側の上告を棄却して、相続人側の敗訴が確定しました。過度な不動産節税スキームに警鐘を鳴らす司法判断といえます。

 

相続税法は、不動産の相続税について「時価」に基づく算定を求めています。国税庁は時価の算定基準として公示価格の8割程度とされる路線価などを示しています。ただ算定額が「著しく不適当」な場合は、国税当局が独自に再評価できるとする例外規定があり、訴訟ではこの例外規定の適用の是非が争われました。

最高裁は、国税当局の算定方法について「路線価などによる画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反する事情がある場合は(例外規定を用いる)合理的な理由がある」との初判断を示したものです。その上で、本件では相続税の負担軽減を意図して不動産の購入や資金の借り入れが行われ、実際に相続税額がゼロになったことなどを指摘し、「他の納税者との間に看過しがたい不均衡が生じ、租税負担の公平に反する」として例外規定の適用を認め、相続人側の主張を退けたわけです。

 

路線価を認めないという最高裁判決が確定したのは今後大きな影響を与えるでしょう。近年ではいわゆる「タワマンスキーム」と呼ばれる節税手法が蔓延り、これも財産評価通達で定めた算定方式による評価額と時価との乖離を利用したものです。一方で路線価を使って評価するということ自体は普通に認められているのですから、そもそも路線価とはなにか?「時価」とは何か?という話にもなります。

 

令和4年4月20日-新しい賃上げ促進税制~「マルチステークホルダー経営宣言」に注目を-

岸田内閣は、新型コロナウイルス感染症への対応に万全を期しつつ、未来を見据え、「成長と分配の好循環」の実現に取り組むこととし、こうした観点に立ち、賃上げを積極的に行うとともに、マルチステークホルダーに配慮した経営に取り組む企業に対し、税制上の措置を抜本的に強化することとしました。その起爆剤として新しい賃上げ促進税制がスタートします。

 

新しい賃上げ促進税制「大企業版」は、旧賃上げ税制と同様、3%の賃上げを制度適用の前提としつつ(税額控除率15%)、4%の賃上げを実現した場合には税額控除率を10%上乗せ、教育訓練費要件(対前年度20%増)をクリアした場合には税額控除率5%を追加的に上乗せ、最大で併せて30%となるものです。

 

自社の賃上げ以上に注目すべきは、取引先大企業が、この新しい賃上げ促進税制の適用を受けるために宣言するであろう「マルチステークホルダー経営宣言」です。

資本金の額等が10 億円以上であり、かつ、常時使用する従業員の数が1,000 人以上である場合には、給与等の支給額の引上げの方針、取引先との適切な関係の構築の方針その他の事項を公表することが、この税制適用の要件とされていますので、下請先(取引先)とのパートナーシップをどのように築くかを注視して、取引の材料にできます。

 

この「マルチステークホルダー経営宣言」には既存の「パートナーシップ構築宣言」URⅬを記載することになっています。当事務所の顧問先が取引している有名企業のパートナーシップ構築宣言では、「取引先も働き方改革に対応できるよう、下請事業者に対して、適正なコスト負担を伴わない短納期発注や急な仕様変更を行いません」などとあります。ご注目ください。

「パートナーシップ構築宣言」ポータルサイト (biz-partnership.jp)

https://www.biz-partnership.jp/


 

 

令和4年4月4日-リアル回帰とICT化-

 20224月入社の入社式は、コロナ禍で三度目の実施となり、「リアル開催での感染症対策予防の方法」や「オンラインでの接続方法」など、企業が一定のノウハウを得た中での開催となりました。多くの企業がオンラインで開催する環境を整備している一方、学生の約7割は「リアル」での入社式参加を希望しており(202112月調査)、「オンラインでは入社の実感を得にくい」「同期で直接話せる機会が欲しい」などの声も上っていました。

日本のリーディングカンパニーであるトヨタ自動車は1日、愛知県豊田市内の本社で入社式を開きました。オンラインではなく、対面中心で開催する入社式は3年ぶりです。1日付で1104人が入社し、「豊田章男社長は『人は喜々としてやっている人のところに集まる。どんなことでも楽しんで仕事をしてほしい』と新入社員を激励した」という報道がありました。

リアルに回帰しているわけですが、一方、コロナ禍の中、オンラインなどICT化が否応なく広がり、デジタル化が進展したのも事実です。生産性向上のツールでもあります。

そのような時、私たち税理士にとって影響の大きな「税理士法改正」が行われました。その第1項目が「税理士の業務のICT化推進の明確化」であります。

具体的には、①納税者(依頼者)対応のデジタル化の推進 ⇒ 資料授受の非書面化、税務相談等の非対面化による業務の迅速化・効率化、②行政対応のデジタル化の推進 ⇒ 電子申告・納税の推進など行政手続、調査対応等のペーパーレス化による迅速化・効率化、③業務環境のデジタル化の推進 ⇒ ウェブ・クラウド・イントラネット等を活用したテレワークなどの働き方の多様化への対応、という内容となっています。

当事務所も、2022年度は、リアルも重視しながら、ICTを一層推進してゆく予定です。

 

令和4年3月17日-相続。通帳がない!口座が分からない?-

 ご家族の中で相続が発生すると意外に手間取るのが銀行口座の把握です。

先日も、亡くなったお母さんの通帳が見つからず、金融機関に連絡し、口座の有無を確認して回ったという事案がありました。金融機関に口座があることが分かったら預金内容の照会を申請し、残高証明書と取引明細書を発行してもらうという段取りを踏むことになります。

さらには、お子さんたちには全く見当がつかなかった金融機関から、たまたま定期預金の「満期のお知らせ」が舞い込み、なんとか相続税の申告期限である10か月以内の遺産分割協議書の作成に間に合ったという事案もありました。

 

亡くなった人がネット銀行などを利用しているとどうでしょう。通常ネット銀行では通帳が発行されず、Web通帳を利用するのが一般的です。

またメガバンクや地銀などでも、紙の通帳に代わってWeb通帳が利用できるようになってきています。紙の通帳を発行すると、印刷費・印紙税などのコストが発生し、磁気不良の場合は修正事務なども求められ、これらのコストが銀行の収益を圧迫するため、ペーパーレスの動きが加速しています。

ネット銀行ではオンライン上でお金のやり取りをしたり、取引明細を確認したりすることが多くなるため、IDやパスワードといった情報は細心の注意を持って管理することになっているでしょうし、特にパスワードはほかのサイトで利用しているものを使いまわすことは避けるように呼びかけられていますので、いざ相続の段階になって残された家族が口座の存在を探すのは、想像以上の時間と労力を費やすことになります。

 

相続税の申告期限は原則10か月以内ですので、もたもたしていると時間切れになることもあります。相続に向けた準備としては、有料になってしまいますが紙の通帳を原則とし、ネット銀行のパスワードは共有にしておいた方が安全です。時代に逆行しているかもしれませんが。

 

令和4年3月1日-海外資産を保有している皆さんへ-

 税務当局が、個人の海外資産や所得の把握に一段と力を入れています。今回は、確定申告のこの時期に行う「国外財産調書」と、各国税務当局間で行っているCRS金融口座情報交換についての現状をお伝えします。

 

「国外財産調書」とは、各年の1231日において価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を保有する場合には、その翌年の315日までに、その国外財産の種類、数量および価額やその他の必要な事項を記載した「国外財産調書」を所轄税務署長に提出することが義務づけられている制度です。類似の制度に「財産債務調書」がありますが別の制度です。

このたび公表された「令和2年分の国外財産調書の提出状況について」では、令和36月末までの提出分を集計した結果がまとめられていますが、それによると総提出件数は11,331件で、そのうち東京局が7,216件、大阪局が1,663件、名古屋局が815件となっています。記載された国外財産の価額の総財産額は、41,465億円で、東京局が3161億円、大阪局が5,737億円、名古屋局が2,174億円ということです。財産の種類別に見てみると、有価証券が21,225億円で全体の51.2%を占め、続いて預貯金(7,208億円、17.4%)、建物(4,523億円、10.9%)と続いています。

 金融機関に預け入れている預貯金が「国外にある」かどうかについては、円建て、外貨建てであるかを問わず、その預金等の受入れをした金融機関の営業所又は事業所の所在地で判定することとされています。そのため、国内支店に開設した口座に預け入れている外貨預金については、国外財産調書への記載の対象にはなりません。同様に、有価証券等が金融商品取引業者等の営業所等に開設された口座に係る振替口座簿に記載等がされているものである場合におけるその有価証券等の所在については、その口座が開設された金融商品取引業者等の営業所等の所在により判定することとされています。

参考:令和2年分の国外財産調書の提出状況について(令和4年2 国税庁)

 

次に、「CRS情報」は、国際的な脱税や租税回避行為に対処するため、Common Reporting Standard(共通報告基準)に基づき、定期的に金融口座情報を交換する制度です。 

近年、個人投資家の海外投資や企業の海外取引が増加するなど、経済社会がますます国際化しています。国税庁は、租税条約等に基づく外国税務当局との情報交換を通じて、国際的な脱税及び租税回避の把握や防止に取り組んでいるものです。

国税庁からは、「令和2年度は、日本居住者に係るCRS 情報約191 万件(口座残高12.6 兆円)を87 か国・地域の外国税務当局から受領し、外国居住者に係るCRS 情報約65 万件(同6.8 兆円)を70 か国・地域の税務当局に提供しました。」と公表されています。

参考:国税庁「租税条約等に基づく情報交換」

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kokusai/eoi/index.htm

 

 海外に資産をお持ちの方は、これらの制度もマークして課税の強化に備えましょう。

令和4年2月26日-コロナ渦の寄付金控除税制-

 6波が終息しない中、新型コロナウイルス感染症への対策が我が国の喫緊の課題となっています。

 新型コロナウイルス感染症への税制における対策としては、2月3日に発表された、申告・納付等の期限の延長(415日までの間、簡易な方法により可能)は、会計事務所にも、コロナ禍で困難な納税者にとっても大きな助けとなっています。
 

 しかし、現在の新型コロナウイルス感染症への対策としての税制措置は、いずれも国が納税者に対して申告と納税に関する緩和措置をどのように講ずることができるのかという観点からのものとなっており、決して十分ではありません。

新聞報道やネット等を見聞きしたりしてみると、新型コロナウイルス感染症の影響で、現在も、生活に困窮している人が非常に多く存在することが分かります。
 

 ところで、所得税確定申告のこの時期、寄附金控除について考えさせられることが多々あります。

例えば、街頭で見かける国連UNHCR協会は、認定NPO法人ですので、この会への寄附は、寄附金控除(税制優遇)の対象になります。地方公共団体に寄附する「ふるさと納税」は、もちろん寄附金控除の対象です。

同じく街頭で良く見かける一般財団法人あしなが育英会に寄附をする場合、残念ながら寄附金控除は受けられません。この会は任意団体扱いで、特定寄附金となっていないためです。また、知り合いに、新型コロナウイルス感染症の影響で困窮している大学生等の生活支援をしている団体がありますが、この団体には、寄附金控除について考える余裕は全くありませんし、任意団体なので寄附金控除の対象ではありません。

 

どうも我が国の寄附金税制は、新型コロナウイルス感染症への対策としての税制措置という視点から考えると、生活に困窮している人にフレンドリーでない制度だと言わざるを得ません。

 

令和4年2月1日-財産債務調書作成にご協力を-

 今年も所得税確定申告作業の時期となりました。

所得税の確定申告書を提出しなければならない方等で、その年分の退職所得を除く各種所得金額の合計額が2,000万円を超え、かつ、その年の1231日において、3億円以上の財産又は1億円以上の有価証券等を有する場合には、財産の種類、数量及び価額並びに債務の金額その他必要な事項を記載した財産債務調書を、その年の翌年の315日までに、所得税の納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません。

 

一方、財産債務調書制度においては、適正な提出を確保するために次のような措置が講じられています。

(1) 財産債務調書の提出がある場合の過少申告加算税等の軽減措置
 財産債務調書を提出期限内に提出した場合には、財産債務調書に記載がある財産又は債務に関して所得税等・相続税の申告漏れが生じたときであっても、その財産又は債務に係る過少申告加算税又は無申告加算税が5%軽減されます。

(2) 財産債務調書の提出がない場合等の過少申告加算税等の加重措置
 財産債務調書の提出が提出期限内にない場合又は提出期限内に提出された財産債務調書に記載すべき財産又は債務の記載がない場合に、その財産又は債務に関して所得税等の申告漏れが生じたときは、その財産又は債務に係る過少申告加算税等が5%加重されます。

 従って、記載すべき財産で記載が漏れていた場合、その財産を売却、解約するなどして所得が発生していると、後日の税務調査等で過少申告加算税等が5%加重される結果となります。

 ご自身の財産状況の確認を兼ねて、年に一度の財産債務調書作成にご協力下さい。

 

 なお、令和4年度改正においては、この財産債務調書の提出義務が拡大され、その年の1231日において、合計10億円以上の価額の財産を持っている方も提出が義務付けられることになります。富裕層の中には、多額の財産があるため敢えて高い所得税を支払ってまでお金を稼ぐ必要もなく、所得が2,000万円以下である方もいます。そうなると、財産債務調書の提出義務がないことになり、国税当局が状況を把握することが困難になりますので超富裕層とも言うべき10億円以上の財産を持っている方は、所得金額に関係なく財産債務調書の提出義務があるとされたのです。

こうなると所得税の確定申告をしないのに、財産債務調書の提出義務はあるという方も生じることになります。この点を踏まえ、財産債務調書の提出期限が翌年3月15日から6月30日に延長されるという改正も同時に行われています。

 

令和4年1月17日-固定資産税増税が行われる-

 昨年末に決定された令和4年度税制改正大綱のうち、固定資産税の増税部分に対して、異例のクレームが発せられました。「制度の根幹を揺るがす見直しは断じて行うことのないよう、この機会に改めて強く求めるものである。」と発信しているのは、全国の市長会で、一言で言うと、「増税幅が少ない」というものです。

 

 固定資産税の評価額は3年に一度算定(評価替え)されます。昨年、令和3年がその年でしたが、評価の基準日になったのが1年前の令和211日、つまりコロナ禍前でインバウンド需要により商業地の値上がりが著しい時でした。したがって、令和3~5年の固定資産税評価額は急上昇してもおかしくありませんでした。それを、コロナ禍でもあり、令和3年度に限った臨時・異例の措置として、税額が増加する全ての土地について前年度の税額に据え置く改正が行われましたので、皆さんには影響はなかったわけです。

 なお、令和4年度以降は、既定の負担調整措置である、年5%ずつ評価額をアップさせる(すなわち増税)措置が行われる方針でした。しかし、令和4年度税制改正ではこの評価額アップの幅を半分の2.5%としたことから、全国市長会から冒頭のクレームとなったわけです。

 

全国市長会の言い分は「この度、住宅用地は既定の方針が堅持されることとされた一方、商業地等については、税額が上昇する土地について、評価額の2.5%分の税額までとすることとされた。固定資産税として適切に本来の姿となるべきことを、都市自治体が切望していたにもかかわらず、このような結果に至ったことは、負担の公平性や都市自治体の基幹税である固定資産税として、極めて遺憾なものであると言わざるを得ない。」というものです。

 

確かに、都市自治体は、新型コロナワクチンの追加接種をはじめとしたコロナ対策はもとより、地域経済の安定を図り、住民生活の日常生活を守るべき団体です。固定資産税は、こうした都市自治体を支える基幹税であることを踏まえ、その安定的確保を図ることは重要ですが、コロナ禍直前ベースの評価額に向かって、増税を進めようとする政策判断はいかがなものでしょうか。

 

令和4年度与党税制改正大綱について(全国市長会会長)(令和31210日)

http://www.mayors.or.jp/p_opinion/o_teigen/2021/12/211210yotoutaikou-omment.php

 

令和4年1月5日-税制改正で賃金があがるか?!-

新年あけましておめでとうございます。本年もアズールメールマガジンをよろしくお願いいたします。

さて、令和4年度与党税制改正大綱の目玉の一つが賃上げ促進税制です。冒頭の文章は次のように展開しています。

 「岸田内閣は、新型コロナウイルス感染症(以下、「感染症」という。)への対応に万全を期しつつ、未来を見据え、『成長と分配の好循環』と『コロナ後の新しい社会の開拓』をコンセプトに、新しい資本主義の実現に取り組むこととしている。

そのためには、企業が研究開発や人的資本などへの投資を強化し、中長期的に稼ぐ力を高めるとともに、その収益を更なる未来への投資や、株主だけでなく従業員や下請企業を含む多様なステークホルダーへの還元へと循環させていくことを通じ、企業として持続的な成長を達成するという本来の使命をより一層果たしていくことが必要不可欠である。

こうした観点に立ち、賃上げを積極的に行うとともに、マルチステークホルダーに配慮した経営に取り組む企業に対し、税制上の措置を抜本的に強化する。」

 「具体的には、継続雇用者の給与等支給額及び教育訓練費を増加させた企業に対し、給与等支給額の増加額の最大30%を控除する措置を設ける。」「中小企業については、賃上げを高い水準で行うとともに、教育訓練費を増加させた場合に、給与等支給額の増加額の最大40%を控除する措置を設ける。」

  いかがでしょうか。赤字企業や所得の少ない企業には税額控除の恩恵は及びませんし、税制だけでは思うように賃金は伸びません。それでもなお、目玉に据えたのは、次の通り「不満」があるからです。

 「近年、企業の前向きな投資や賃上げを促す観点から、法人実効税率の引下げをはじめとする様々な税制上の取組みを行ってきた。しかしながら、わが国の賃金水準は、実質的に見て30年以上にわたりほぼ横ばいの状態にあり、その伸び率は他の先進国に比して低迷している。人的資本や無形資産への投資の規模や、設備の経過年齢を見ても、主要国に見劣りする水準にある。その一方で、株主還元や内部留保は増加を続けており、コロナ禍を受けてもその傾向は変わっていない。」

 一時、賞与等一時金が賃上げ税制の対象となるかどうかに関心が集まっていましたが、結果的に雇用者の給与等支給額には賞与等が含まれることで決着しています。この改正は令和4年度分からですので、収益を拡大し、賃上げ促進税制の恩恵を受ける企業体質づくりに取り掛かりましょう。