トランプ関税が世界経済を揺るがしています。日本経済への影響、という目線で考えると、トランプ大統領が掲げた一連の関税措置は単に日本の輸出を下押しするだけでなく、短期・中長期の目線で経済・金融市場に多面的な影響を及ぼすことになりそうです。
短期的な影響のまず一つ目は、日本の対米輸出への影響です。自動車への追加関税と今回の相互関税によって、日本側にとっては対米輸出21.3兆円(2024年)に対して4~5兆円程度の負担増が生じることになるそうです。この負担増はアメリカ消費者への価格転嫁や日本企業側のコスト削減によって賄われることになるので、日本の対米輸出環境は大きく悪化することになり、日本の輸出減少圧力として顕在化してくる可能性が高いと考えられます。
二つ目は、設備投資への影響です。世界経済の悪化懸念に加えて、トランプ氏の政策不透明感の強まりが足かせになり、その不確かさ故に企業の設備投資判断も慎重化せざるを得ないでしょう。
三つ目は、個人消費への影響です。金融市場を通じた逆資産効果、消費者マインドへの影響が懸念されます。特に、2024年以降の新NISA開始以降、若年層中心にリスク資産の保有者は増加しているので、株安と円高のダブルパンチとなっている家計も少なくないでしょう。
さて、日本の国際課税への影響についても簡単に触れます。
経済協力開発機構(OECD)加盟国など140カ国・地域は2021年、法人税の最低税率を15%にする「グローバルミニマム課税」に合意し、日本では、この軽課税所得ルールを盛り込んだ税制改正が成立したばかりです。この、軽課税所得ルール(UTPR)は、アメリカの親会社が、子会社のある国で親会社の税負担が最低税率(15%)になるまで子会社に課税されるルールなので、アメリカが一方的に離脱しても課税から逃れられません。そこでトランプ大統領はさっそく大統領覚書で、法人税の最低税率に関する国際ルールは米国内では「効力を持たない」との見解を示し、合意から事実上離脱しました。欧州や日本など、15%のグローバルミニマム課税を採用している国々が、税率の低い米国の企業に「上乗せ」税率を課す可能性があるのですが、大統領覚書はこうした対応は「報復措置」と見なすとの見解を示しました。どうなることやら、です。
中小企業にとってなじみやすい投資促進税制に、文字通り「中小企業投資促進税制」があり、令和7年度税制改正により、適用期限が令和9年3月31日まで2年延長されました。ご活用いただきたいのでご紹介します。
この制度は、青色申告書を提出する中小企業者等が令和9年3月31日までの期間内に新品の機械装置等の取得等をして、国内にある製造業、建設業等の指定事業の用に供した場合に、その指定事業の用に供した日を含む事業年度において、特別償却又は税額控除が認められるものです。なお、所有権移転外リース取引により賃借人が取得したものとされる資産については、特別償却は適用されませんが、税額控除は適用されます。中小企業とは、資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人などです(若干複雑なところがありますので担当者に確認ください)。
適用対象資産には、① 機械及び装置で1台又は1基の取得価額が160万円以上のもの、②一定の測定工具及び検査工具で1台又は1基の取得価額が120万円以上のもの、③一定の測定工具及び検査工具の取得価額の合計額が120万円以上のもの(1台又は1基の取得価額が30万円未満のものを除きます)、④一定のソフトウェアで、一のソフトウェアの取得価額が70万円以上のもの、又はその事業年度において事業の用に供したソフトウェアの取得価額の合計額が70万円以上のもの、となっています。
個人事業主と、資本金3,000万円以下の中小企業は30%特別償却又は7%税額控除が選択でき、資本金3,000万円超の中小企業は30%特別償却となります。
①中古品、②貸付の用に供する設備、③匿名組合契約等の目的である事業の用に供する設備、④コインランドリー業(主要な事業であるものを除く)の用に供する機械装置でその管理のおおむね全部を他の者に委託するものは対象外です。
設備投資計画をお持ちいただくと同時に、本制度を活用して節税を検討ください。
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これらのことは、4月アズールセミナー『令和7年度税制改正の実務ポイント』で詳しくお伝えする予定です(日時:令和7年4月10日(木)14:00~16 :30)ぜひご参加ください。https://www.azuretax.jp/free5
サラリーマンにとっての103万円の壁が160万円になるらしいという全経理マン、人事マンにとって煩わしい改正が本年令和7年から開始されるという税制改正の中で、あまり盛り上がっていない項目として、令和8年4月1日以後に開始する事業年度から開始される防衛特別法人税があります。
もともと、防衛三文書と同日に決定された「令和5年度予算編成大綱」では、「NATO諸国の国防予算の対GDP比目標(2%以上)も念頭に、5年以内に防衛力を抜本的に強化するために必要な予算水準の達成を目指す。」とするとともに、防衛力整備計画の規模は、43兆円程度とされ、新たに必要となる防衛費を賄うための財源として、税制改正により毎年度1兆円を確保することとされていたものが、いよいよ始まるということです。
防衛特別法人税は、各事業年度の基準法人税額に対し4%の税率を乗じた金額を徴収する、というものです。基準法人税額とは、法人税の基本額から特定の控除(外国税額控除など)を適用する前の法人税の額から、年間500万円の基礎控除額を控除した金額をいいます。対象者となるのは、法人税を課される全ての法人が対象となります。
中小法人に配慮した基礎控除額500万円の措置があることから、課税所得が2,400万円程度までの法人に対しては課税されないことになり、全法人の94%が課税対象外になると見込まれています。
しかし、年間の利益が2,400万円を超える法人は、当事務所の顧問先さんでも数多く実在しています。これらの法人に対して、防衛特別法人税納付のご案内をすることが実に気が重い話です。利益をグループ内の別会社に合理的・合法的に移転させるとか、会社分割をするとかの提案が現実味を帯びてきます。
なお、防衛増税の税目としては、法人税の他に、たばこ税の引き上げが決まっています。加熱式たばこの課税方式の見直し(紙巻たばこと同様に重量に基づく課税方式に変更)とたばこ税率の段階的引き上げです。具体的には、たばこ税の税率を、1本0.5円ずつ3回に分けて増税(最終的に1本当たり1.5円)することになりました。
所得税では、令和9年から復興所得税を1%下げる代わりに、防衛増税を1%課すことが予定されていましたが、先送りにされました。
これらのことは、4月アズールセミナー『令和7年度税制改正の実務ポイント』で詳しくお伝えする予定です(日時:令和7年4月10日(木)14:00~16 :30)ぜひご参加ください。https://www.azuretax.jp/free5
来年度予算審議が難航しています。3月1日段階では、来年度予算案と税制改正関連法案の修正案が国会に提出され、その中で「年収103万円の壁」がクローズアップされています。この数字はサラリーマンの「必要経費」ともいえる給与所得控除の最低保障額55万円と、原則すべての納税者に適用される「基礎控除」48万円の合計額103万円であること、この103万円を引き上げることが協議されていることがマスコミ等で周知され、税制についての国民的関心が高まっていることはとても良いことだと思います。
当初の昨年12月政府案は、103万円の壁を、給与所得控除で10万円、基礎控除で10万円引き上げて、123万円とする案でした。それが2月までの協議で160万円に拡大されたと報道されています。160万円とは、給与所得控除の最低保障額65万円と基礎控除について、給与収入200万円相当以下の個人で95万円とすることの合計額です。基礎控除については、給与収入850万円相当以下の個人までは負担軽減が行われます。
しかしこの課税最低限160万円というのは正確ではなく、実際には出金を伴う所得控除として社会保険料が給与収入200万円以下では約15%あり、社会保険料控除を加味すれば住民税は給与収入130万円から、所得税は給与収入190万円からの課税となります。
この間の国民の手取をめぐる議論は、もっぱら所得税の基礎控除のみで考えられていますが、税・社会保険料の国民負担は、財務省所管の所得税・消費税、総務省所管の住民税、厚生労働省所管の厚生年金保険料又は国民年金保険料及び健康保険料の合計であります。この中で所得税基礎控除の拡大と所得税・住民税共通の給与所得控除の改正は進み、所得税の基礎控除は大幅に拡大されました。
しかし、住民税における恩恵は給与所得控除の拡大のみであり、社会保険料負担は、今回まったく議論されませんでした。従って社会保険料負担をめぐる年金の106万円の壁(従業員51人以上の大企業のパート労働者の厚生年金加入の壁)と130万円の壁(従業員50人以下の中小企業・個人企業に勤務するパート労働者の国民年金加入の壁)は残されたままです。但し、同じ130万円の壁であっても親の健康保険から外れる学生アルバイトについては、厚生労働省が通知により、これを150万円未満に引上げる予定です。
4月にはアズールセミナー『令和7年度税制改正の実務ポイント』を開催します(日時:令和7年4月10日(木)14:00~16 :30)ぜひご参加ください。
先日の日本経済新聞の報道を見て驚きました。相続人不存在で、「国庫に入る財産が2023年度で1,015億円となったことが最高裁への取材でわかった」というものです。10年で3倍に増え、初めて1,000億円を超えたようです。
「相続人不存在」とは、被相続人(財産を残す人)に相続人がいない状態のことを指します。相続人がいない場合、その遺産は家庭裁判所によって管理され、特別な手続きを経た後に最終的には国庫に帰属されます。少子高齢化や独身率の上昇が背景にあると考えられます。
少子高齢化の影響により、配偶者や子どもがいない「おひとりさま」が増加しています。厚生労働省によるデータでは、50歳時点で一度も結婚していない「生涯未婚率」が年々増加しており、直近の2020年国勢調査における生涯未婚率は、男28.3%、女17.8%です。このような変化により、相続人がいないケースが増えているのです。
相続人がいないと確定した場合、財産は次の手続きを経て国庫に帰属します。
(1)相続財産清算人の選任
相続人がいない場合、家庭裁判所により「相続財産清算人」が選任されます。この役割を担うのは、被相続人の債権者や特別遺贈を受ける人などの「利害関係人」が申立てを行った場合です。清算人は、相続財産の管理と清算を担当します。
(2)相続人捜索の公告
家庭裁判所は、被相続人が亡くなったことを公に知らせ、相続人がいる場合は名乗り出るよう公告します(少なくとも6ヶ月以上)。これによっても相続人が見つからない場合、「相続人不存在」が確定します。
(3)債権者への公告
相続人がいないと確定した後、被相続人の債権者や特別遺贈を受ける人に名乗り出るよう公告されます(期間は2ヶ月以上)。これにより、未払いの借金や特別な遺贈について対応が行われます。
(4)特別縁故者への財産分与の申し立て
「相続人不存在」が確定してから3ヶ月以内に、被相続人と特別な関係があった「特別縁故者」への財産分与を申し立てることが可能です。特別縁故者には、内縁の配偶者や生前に被相続人の介護をしていた人などが該当します。家庭裁判所の審判を経て分与が行われます。
(5)国庫への帰属
特別縁故者が現れない、または申し立てが却下された場合、財産は最終的に国に帰属します。
相続人不存在が予想される場合、希望する相手や団体に遺産を遺贈したいと考える方もいるでしょう。たとえば「お世話になった人に遺産を残したい」あるいは「社会貢献のために寄付したい」という意思がある場合、遺言書の作成をお勧めします。遺言書を作成し、意思を明確にしておくことで、自分の財産を希望する形で活用できます。最近よく聞く「遺贈寄附」です。
確定申告の時期となり、当事務所にとっては大変な時期を迎えています。
あらためて所得税の確定申告についてご説明します。毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得の金額と、それに対する所得税等の額を計算して確定させる手続きです。申告の期限は、原則として、その年の翌年2月16日から3月15日までですが、今年は、申告期限が土日等にあたるため、3月17日までとなっています。
さて、令和6年分の確定申告のポイントですが、大きな変更点は何といっても「定額減税」です。その他の変更としては、税務署の収受印の廃止、子育て世代等への住宅ローン控除の拡充、ストックオプション税制の改正、マイナポータルでの連携強化などがあります。
定額減税の対象者は、令和6年分所得税の納税者である居住者で、令和6年分の所得税に係る合計所得金額が1,805万円以下である方(給与収入のみの方の場合、給与収入が2,000万円以下(注)である方)です。(注)子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除の適用を受ける方は、2,015万円以下となります。
定額減税については、給与等での控除、年末調整での控除、予定納税からの控除などを経て、定額減税額が確定申告で最終的に確定することになります。給与や年金からの定額減税や予定納税からの定額減税で、二重に控除されていたとしても、この確定申告で最終調整されることになるので、あらためて定額減税の対象になるかどうかの確認をする必要があります。
確定申告時に気をつけることとして、一つ目は配偶者間で所得差が大きい場合があります。仮に世帯主の所得が1,805万円超で、配偶者の所得が1,805万円以下の場合には、世帯主の確定申告には16歳未満の扶養親族を記載せず、配偶者の確定申告で記載するようにすれば、配偶者の所得税から定額減税ができるようになります。二つ目は調整給付金の支給についてです。所得税額から控除しきれない定額減税の金額がある場合は、次の給付金が市区町村から支給されます。①当初給付…所得税額や個人住民税所得割額から定額減税額を控除しきれないと見込まれる場合、令和5年の所得状況に基づき、控除しきれないおおむねの額が給付されることとなっています。②不足額給付…申告等により令和6年分の所得税額と定額減税額が確定した後、当初給付の支給額に不足する金額があることが判明した場合、追加で支給されます。令和6年分の確定申告によって控除不足額がある場合は、市町村から支給されるということになっていますのでご注意ください。
新NISAは2024年1月の改正で「年間投資枠が最大360万円」「非課税期間は無期限」「保有限度枠1800万円」などと、旧NISAに比べて制度が大幅に拡充されました。老後資産や住宅・教育資金向けなど、長期の資産形成に使い勝手が良くなったことから、「新NISAで投資を始めた」という人も多いことでしょう。
金融庁によると、新ルールがスタートして半年経った昨年6月末時点でNISA買付額の合計は10兆円超、口座数は2400万を超えたようです。投資ブームの過熱に呼応するかのように、同年7月11日に日経平均株価は史上最高値の4万2224円を記録しました。しかし、昨年8月5日には日経平均が3万1000円台まで下がり、バブル期のブラックマンデーに次ぐ下落率を記録したことから、一時的に「NISA詐欺」などの悪評も聞かれましたが、その後は値を戻し、年末まで3万9000円前後で推移しています。長期的に見れば、昨年の大暴落は瞬間的な「ノイズ」に過ぎませんでした。
一方、令和7年度税制改正では、NISAの利便性の向上が行われる予定です。
一つ目は「NISA口座(勘定)は、金融機関変更手続の実施日に設けられることとし、即日買付を可能とする」というものです。仮に二重口座等であった場合には、変更手続時まで遡って課税口座(特定口座又は一般口座)へ移管するとされます。以前に銀行から頼まれてNISA口座を開設していたのに稼働しておらず、改めて証券会社で新NISAをやろうとしたところ二重になるので口座開設ができず、投資熱が下がってしまった、ということが解消されます。
二つ目は従来の買付方法(定額買付)による最低取引単位を「1千円以下から1万円以下に引き上げる」というものです。顧客が取引を開始できる最低額を低く設定する程、少額からの投資が可能となりますが、「1千円以下」の要件は、買付金額としては小さすぎるため、現状、証券会社等による取扱が進んでおらず、却って顧客の利便性を損なうこととなっていたことを改めるということです。こうした買付方法の柔軟化を通じ、より多様な商品の提供が期待されます。
新NISA2年目を迎えるにあたり、知っておきたい改正動向です。
令和7年度税制改正大綱は、103万円の壁をめぐり、少数与党と国民民主党の協議が整わない中で閣議決定がなされましたが、このテーマに隠れて中小企業向けに新たな税制が創設されそうです。「売上高100億円超を目指す」成長意欲の高い中小企業への優遇税制です。
政府の認識では、物価に負けない賃上げを定着させることで、賃上げに支えられた消費の増加が企業収益を押し上げ、さらには家計への還元につながるという「賃金と物価の好循環」を安定的に実現していくためには、生産性の向上が不可欠である、としています。
特に、雇用の7割の受け皿になっている中小企業では、収益力が弱い企業は賃上げも困難な状況にあり、適切な価格転嫁に加えデジタル化等の投資を促進していく必要があります。中小企業は、雇用の7割を抱える、わが国にとって重要な経済主体であり、その健全な成長が地域経済の維持・発展のために不可欠ですが、小規模事業者やスタートアップ企業、さらには地域経済を牽引する企業や大きな成長力を有する企業など様々な態様があります。その中でも、売上高100億円を超えるような中小企業は、輸出や海外展開等により域外需要を獲得するとともに、域内調達により新たな需要を創出する地域の中核となる存在であり、そうした企業を育成することで、地域経済に好循環を生み出していくことが鍵となります。
そのため、「売上高100億円超を目指す」成長意欲の高い中小企業が思い切った設備投資を行うことができるよう、中小企業経営強化税制を拡充し、対象設備に建物を加えることになりました。「目指している」というためには、売上向上のための施策及び設備投資時期を示した行程表(ロードマップ)を作成していることなどが要件とされていますが、前向きな中小企業を後押しする制度は有意義です。